冒頭で引用した前回コラムでも指摘したが、民主選挙によって政権の正統性を確保しているわけではない中国共産党は「結果=業績」によってそれを証明していかなければならない。

 言い換えれば、“失敗”は許されないということである。

 だからこそ、中国共産党は往々にして失敗・失策・失態を認めない傾向が極めて強く、特に政権の正統性を揺るがすような問題や事件に関しては公に語ることも、公に語らせることもしないのである。“天安門事件”がその典型であろう。

 それだけでなく、政治、経済、外交、社会、民族、宗教といった分野を含め、中国共産党は往々にして「我々に問題はない」「すべてはうまく行っている」「人々が心配する事態など発生していない」「安心して生活し、党を信じ、党についてくればいい」という類いの見解や立場を公に発信することで、人民が中国共産党による統治を受け入れる状況を創造しようとする。

 やや赤裸々な表現で言えば、自らの統治に有利に働くポジティブな情報だけを流し、ネガティブな情報は隠すのが中国共産党の政治スタイルである。そして特に報道や言論への引き締めや抑圧が厳しく強化されている昨今の習近平政権下においては、政権や政策を批判するメディア、報道、知識人は皆無に近い。ということは、共産党自らが公開・発信しない限り、ネガティブな情報(うわさやゴシップは除く)は市場や世論に出回らず、人民たちもそれを知る術やチャネルは基本的にないということになる。もちろん、一部知識人、エリート大学生、ビジネスマン、および中国や外国の諸事情を客観的に知りたいと飢える中産階級など、VPNを使用することで中国共産党が国内でシャットアウトするサイトにアクセスを試みる中国人民もいる。ただ筆者が見る限り、その数は中国の総人口からすれば限定的であり、かつ近年中国当局のVPN、およびVPN使用者への監視や規制も強化されている。

人民たちに
「心の準備」をさせる

 上記のように、李克強は中国が直面するリスクや不安要素といったネガティブな面を比較的率直に公言し、それが人々にも伝わっている。

 では、中国共産党はなぜそのような自らの伝統的なスタンスややり方に反する行動を取ったのか。

 統治の対象である人民たちに“心の準備”をさせるためであろう。

 情勢が悪化し、リスクが山積する現状を人民たちが部分的にでも知った上で、これから迫り来る困難や苦境を心の準備を持った上で迎えるシナリオと、それまでは「何も問題はない」と言われている中で状況が一気に悪化し、社会不安が蔓延し、人民たちがパニックに陥るシナリオ。