平成も間もなく終わるが、いろいろな脱税事件が表面化した。納税は「国民の3大義務」の1つとされながら、何とかして税金を免れようとする法人・個人は後を絶たない。そして、その脱税事件は「時代を反映する」といわれる。各国税局の査察部(マルサ)やほかの取り締まり機関が急激に成長した業種や注目される著名人の懐具合を精査し、税金逃れをしていないか目を光らせているためだ。政治家や資産家、企業に切り込んだ平成の事件を振り返ってみたい。(事件ジャーナリスト 戸田一法)
特捜部のメンツ守った国税
「マルサ」が一般に知られるようになったのは、平成になる直前の1987年に公開され、大ヒットした映画「マルサの女」がきっかけだ。そのマルサが一躍脚光を浴びたのが、故・金丸信元自民党副総裁の脱税事件だろう。
金丸氏が佐川急便事件から5億円のヤミ献金を受け取ったとされる疑惑を巡り、東京地検特捜部は逮捕・起訴はおろか「上申書」の提出を受けたとの理由で本人聴取すらせず、1992年9月28日、政治資金規正法違反の罪だけで東京簡裁に略式起訴した。
結局、20万円の罰金だけで済み、事件の核心部分は未解明のまま幕引き。特捜部は国民から「大物政治家は特別扱いか」などと激しい批判を浴び、東京・霞が関の検察合同庁舎には黄色いペンキが投げ付けられた。
メンツが丸つぶれとなった特捜部は事態を打開しようと、金丸氏に関わる情報を持っていないか東京国税局に相談。国税局は内偵で金丸氏が政治資金を流用して日本債券信用銀行の割引金融債(ワリシン)を購入していた事実をつかんでおり、この事件を突破口に1993年3月6日、所得税法違反容疑で逮捕にこぎつけた。
結局、国税局がつかんでいたワリシン以外にも次々と申告していない蓄財が見つかり、特捜部は約18億4000万円の所得を隠し、約10億4000万円を脱税したとして所得税法違反の罪で起訴した(公判中に金丸氏が死去したため公訴棄却)。