昨今、金融サービスへの異業種の参入が相次いでいる。果たして、その狙いと成否とは? この第2回で取り上げるのはコンビニエンスストアの挑戦である。セブン銀行に遅れること17年、ローソンとファミリーマートの戦略を追う。

「周回遅れ」を取り戻すローソン銀行の挑戦

 2018年10月15日、大手コンビニエンスストア・ローソン系列のローソン銀行が営業を開始した。同様の大手コンビニ系列の銀行としては、すでに2001年から営業を行なっているセブン銀行に次いで2社目の挑戦となる。

 地域銀行をはじめとして銀行ビジネスが苦境に陥っているなか、約7年ぶりの銀行業への新規参入である。なぜこのタイミングなのかと、成長可能性や新銀行設立というスキームを疑問視する見方も少なくない。

 こうした悲観的な見方に対し、同社はローソンのコンビニ店舗を基盤に、ATMサービスの充実のみならず、キャッシュレス決済サービスの導入やその他の金融商品の提供等も視野に、新しい金融サービスコミュニティの構築に向けて積極的な姿勢を示している。

 しかし、すでに17年も前に先行して銀行業を開始しているセブン銀行との差は大きい。中核となるATM事業においては、ローソン銀行のATM設置台数が約1万3000台であるのに対し、セブン銀行は約2万5000台と2倍弱にのぼる。また、セブン銀行はATM事業を軸に積極的な多角化を進めており、海外送金や口座不要の現金受取りサービスや、地域銀行向けに各種事務受託業務も行なっている。最近ではマネーロンダリング対策の一環として、不正取引検知の支援に対する需要も急増しているという。

 セブン銀行が銀行として築き上げてきた金融ビジネスの成功実績に対し、銀行という業態を身にまとったローソンがどう立ち向かうのか、コンビニ金融業界が改めて盛り上がっている。

金融事業戦略を明らかにしないファミリーマート

 一方、大手コンビニチェーンの一角であるファミリーマートの金融ビジネス戦略の全貌は、なかなか見えてこない。2019年7月を目途に、独自のスマホ決済サービス「ファミペイ」を開始することや、現在独占的に取り扱っているTポイントのみならず、様々なポイントを付与するマルチポイントサービスへの移行は明らかになっている。だが、銀行業への参入やコンビニ金融の中核となるATM事業戦略の方向感は明確に示されていない。

 同社のATM設置台数は約1万7000台と、ローソンを上回るが、その内訳をみるとイーネットやゆうちょ銀行等の種類が異なるATMが混在している。この背景には、各地域で有力企業と提携してフランチャイズを運営する「エリアフランチャイズ制」というファミリーマート特有のビジネススキームがある。全国の店舗が一体となって動くことが難しく、スピード感と統一感をもった戦略を展開しにくい点で不利だと言われている。

 まずは今年7月のスマホ決済を中心とする新サービスの提供がひとつのマイルストーンになるだろう。そして、その後にファミリーマートがどんな手を打ってくるのか、銀行業への参入はあるのかが注目されている。

キャッシュレス時代のコンビニATMの役割

 コンビニエンスストアが個人向け金融ビジネスへ参入するうえで最も強みになるのは、全国的に展開する店舗である。それだけ多く利用者との対面接点があり、その強みを最大限にいかせるのがATM事業であることは言うまでもない。

 ただ、政府が音頭を取って決済のキャッシュレス化を強力に推し進めるなか、生活の中で現金の必要性も薄れることが予想され、ATM事業の先行きを悲観する意見も少なくない。

コンビニの店舗網が強みに(写真はイメージです)

 しかし、そのような流れがあるからこそ、銀行業への参入も辞さず、コンビニがATM事業とそれを中心とする金融サービスの提供にいま注力しているとも考えられる。

 まず、考慮に入れるべき要素として、地域銀行の苦境とその経営戦略の転換がある。少子高齢化の進展や低金利環境の長期化といった経営環境の悪化を受け、すべての地域銀行が経営戦略の見直しとそれに応じたリソースの再配賦を行なわなければならない状況にある。

 そうしたなか、ほとんどの地域銀行が自前で運営しているATM事業を外部運営に切り替える需要が大きく見込まれる。地域銀行のATM事業が平均して年間数億円もの赤字とも言われているなか、駅や公共施設等に異なる銀行のATMが複数横並びになっている光景ほど奇妙なものはない。津々浦々に店舗を展開するコンビニATMを活用したり、コンビニ店舗外にもATM設置を交渉できれば、銀行顧客の利便性を損ねることもない。また、大手コンビニは各銀行の設置台数の数十倍ものATM機器を運営しており、その事務・警備費用のボリュームディスカウントも見込まれ、大幅な費用削減も可能となる。

 したがって、現在全国に約20万台もあると言われているATMの総数の伸びが頭打ちになったとしても、地域銀行からのATM運営代行のニーズはそれだけで十分に採算が見込まれる。

 また、キャッシュレス化が今後大きく進展したとしても、私たちの生活から現金ニーズが消えて無くなることは考えられない。個人間の送金においても、銀行口座を経由しないスマホアプリ内で完結する送金が増えてくる一方で、慶弔時など現金を何らかの形で引き出したい状況も想定される。加えて、決済サービスによっては、銀行口座やクレジットカードの連携以外に、必要に応じたチャージが必要なものもあるだろう。

 今後のコンビニATM事業においては、単に銀行口座からの現金の入出金に留まらず、このような様々な形態の「キャッシュ」を取り扱うニーズを汲み上げ、各地域の生活者の総合的なキャッシュポイントとなることを目指すことが、大きな成長戦略のひとつになる。

外国人向け金融サービスに対する需要

 キャッシュポイントとしてのATM事業の成長ドライバーには、在留外国人ニーズの取り込みも考えられる。すでに地方においても増えつつある外国人の移住や就業は、改正出入国管理法の施行を受け、今後さらに急増するだろう。金融サービスの提供を考えるうえで、その存在はもはや無視することができない。

 中でも特に増加が予想されるアジア系外国人については、母国にいる家族等に定期的に送金する郷里送金の習慣がよく見られる。1回あたり数万円程度が多く、決して多額の送金というわけではないが、その件数は多く、金融機関がそこで得る手数料は決して小さくない。

 しかし、金融機関におけるマネーロンダリング等の不正防止の対応コストが大きくなっていることから、地域銀行のなかには窓口での郷里送金を謝絶する動きが足もとで広がりつつある。最近では、三菱UFJ銀行やみずほ銀行も現金での送金依頼を受け付けなくすると報じられており、このような動きは多くの地銀にさらに広がっていくことが予想される。

 こうした外国人就業者からの需要の高まりと金融機関の対応の制限のギャップが広がるところにも、コンビニ金融の成長余地が大きく見込まれる。コンビニATMの最新機器やデータ分析をもとにマネーロンダリングのリスク管理を集中して行なうことで、外国人の郷里送金ニーズを取り込むのみならず、地域銀行が不得手とする外国人の預金口座開設の事務を代行したり、自行口座の開設へと誘導するなど、その金融サービスニーズを幅広く取り込むことは決して困難ではないだろう。

決済と融資の機能でも差別化できる

 コンビニが提供する金融サービスについても、その機能面で分類してみよう。前回も紹介したとおり、金融の役割は大きく分けて4つある。

1. 資金移転(決済)
2. 資金供与(融資)
3. リスク移転(保険)
4. 資産運用

 コンビニの場合はATM事業を軸にしたサービス展開なので、「1.資金移転(決済)」「2.資金供与(融資)」が中心というのが現在の状況である。

 ただし、この2つの機能だけでも提供できるサービスは非常に幅広い。銀行預金口座での現金の預け入れや出金、送金にはじまり、クレジットカードの発行やキャッシュレス決済手段の提供、そこでの貸し付けサービスなど、これらをいかに利便性高く提供できるかというだけでも、他社と差別化できるポイントは少なくない。

 また、現在は海外送金スキームに外資系の資金移動業者を活用することが一般的であることから、送金業務で得られる手数料収入も限定的と思われる。ここでより高い収益を見込めるスキームにすることも課題であろう。海外コルレス網の構築や管理、在日外国銀行との提携による送金スキームの構築など、銀行免許を持っているからこそ講じられる施策もあり、できることはまだまだある。

将来はおつり預金やおつり投資も?

 一方、それ以外の「3.リスク移転(保険)」「4.資産運用」機能のサービス提供はどうだろうか。ともに金融サービス利用時点と資金を必要とする将来の経済活動の間には大きなタイムラグがあり、特に「4.資産運用」は、将来の経済活動の時点で金融商品の金額がいくらになっているかわからないという不確実性もあるため、金融機関による専門的なサポート無しにはなかなか利用しづらいというハードルがある。

 対面接点という利点はあるが、ちょっとした買い物や時間つぶしのためにコンビニ店舗に立ち寄る利用が多いと思われる現状、コンビニ店舗に家計の相談を期待する利用者が増えるというのはなかなか想像しづらい。

 「3.リスク移転」や「4.資産運用」のなかでも、身近かつ小型のサービスが主体になるのではないであろうか。たとえば長期的な資産運用サービスよりも、おつり預金やおつり投資であろうし、生命保険ではなく、短期・少額の損害保険などだ。ただし、こうしたサービスはひとりの顧客から得られる合計収益を表すLTV(Life Time Value(顧客生涯価値))が小さく、事業として収益化しにくいという難点がある。コンビニ店舗やATMという接点に組み込みやすいこうした商品・サービスの提供から始めて、独自の金融サービスの世界観を確立しつつ、長期間をかけて多様な金融サービスの事業化を目指すのが現実的だろう。(次回テーマは、携帯電話キャリアの金融ビジネス参入)