脳
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 女性は男性より長生きする傾向にある。このことは生物科学において最も確かな研究結果の一つで、証拠は探すまでもない。米国の平均寿命は女性が男性より約5年長く、ラトビアとベトナムではその差は10年にもなる。新たな研究によると、成人になってからの脳も男性より女性のほうが若いようだ。

 この研究はセントルイス・ワシントン大学医学部の放射線専門医マヌ・ゴヤール氏と神経科学者マーカス・レイクル氏のチームが行い、先月、米国科学アカデミー紀要(PNAS)で発表された。それによると、脳の代謝――脳がグルコースと酸素を使って活動に必要なエネルギーを供給する速度――を測定したところ、成人女性の脳は常に男性の脳より3歳程度若いようだ。脳年齢の男女差には寿命の男女差がそのまま表れており、認知機能が正常に働く期間に神経発達の性差がどう影響するかについて、重要な事実を示すものかもしれない。

 レイクル氏は1970年代初頭に、PET(陽電子放射断層撮影)を使って人間の脳の認知機能を初めて調べた脳科学者の1人で、82歳になった今も研究を続けている。最新の研究では、PETで脳をスキャンし、成人の脳がどれくらいのエネルギーを消費しているか、脳の中でエネルギー需要が最も大きい部位はどこかを評価した。レイクル氏によると、「グルコースは石炭のようなもので、脳の中で燃焼してエネルギーを生成する」が、「その過程で脳が欲しがらない副産物も生成される」。その結果、グルコースの量から脳の活発さや若さの情報が読み取れるという。

 研究では20歳から85歳までの健康な成人205人に目を閉じて静かに横になった状態でPET検査を受けてもらい、スキャンした画像からさまざまな神経領域に流れる血流を評価すると同時に、2種類のグルコース吸収――一つは酸素を燃やす酸化的吸収、もう一つは酸素を燃やさない非酸化的吸収――を調べた。チームが2017年に発表した研究では、若い時は脳はこの両方でグルコースを消費するが、非酸化的消費は年を取ると急減することが分かった。思春期以降の脳の血流減少は、男性より女性のほうが少ないことも明らかになった。

 脳の代謝にこうした男女差があるということは、女性の脳は同年代の男性の脳より若く見えるということだ。研究チームは被験者の脳に特徴的なパターンを見つけるため機械学習を活用した。ゴヤール氏によると「男性の脳のパターンを使って機械を訓練し、女性の脳を評価させると、機械は女性の脳が実年齢より3~4年若いと推測した」という。逆に女性の代謝パターンが基準となるように訓練すると、機械は男性の脳を実年齢より2~3歳上と推測した。代謝による脳年齢は男性より女性のほうが約3歳若い、ということだ。

 こうした脳年齢における性差は成人期を通じて変わらず、脳にアルツハイマー病の前兆が見られてもはっきりしていた。カリフォルニア大学アーバイン校で脳の男女差を研究する神経科学者ラリー・カーヒル氏は、性別の影響が脳のあらゆる機能に見られることを示す証拠はこれまでにも多く見つかっていると指摘。そのうえで「神経科学の他の領域でもそうだが、(発見された証拠の)意味を理解するのに苦労することが多いからといって、発見の重要性が薄れることはない」と話した。

(The Wall Street Journal/Susan Pinker)