「源流強化」を合言葉に、“ホンダらしさ”の再確認と革新を進めてきた福井威夫社長が6月23日の株主総会後にその座を伊東孝紳専務に譲り、相談役に退く。6年間の在任期間の実質的な最終年度(2009年3月期)は、世界的な景気減速で大幅な減収減益となったが、2003年からの5年間は好業績を維持した。ホンダはこの間、自らの哲学と技術だけを武器に世界的な競争を勝ち抜き、「規模の論理」が唯一解ではないことを証明してみせたといえよう。ただ、日本が誇るその「ものづくり集団」も、先進国需要の低迷、環境投資負担の増大といった構造変化の荒波とはむろん無縁ではいられない。この激動期に後進に道を委ねる福井氏は、勝ち残る自動車メーカーの条件、そして何よりホンダらしさの在り方をどう見ているのか。文字通り社長としてのラストインタビューをお届けする。(「週刊ダイヤモンド」編集部 山本猛嗣)

6月23日に取締役相談役に退く福井威夫・ホンダ社長
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―自動車の大衆化の先駆けとなったT型フォードの誕生、そして米ゼネラル・モーターズ(GM)の創業から100年に当たる昨年、極度の販売不振により米国の自動車産業が傾き、日本でもトヨタ自動車が赤字に転落し、ホンダも大幅な減収減益に見舞われた。そして、今年に入り、クライスラーとGMがついに連邦破産法第11条(チャプターイレブン)適用を申請し経営破綻するに至った。この状況をどう捉えているか。 

 今回の経済バブル崩壊の直前、つまり昨年前半の頃だが、私は社内でこう話していた。1908年にT型フォードが誕生してから100年が経つが、これからはあの時点から続いてきたビッグスリー中心の、言い換えれば、ピックアップトラックのような大型車中心の典型的な自動車産業に新しい転換期が訪れる、と。ハイブリッド車(HV)がその転換の典型だ。今後は間違いなく、燃費の良いクルマ、鉄などの資源をあまり使わないクルマが主力になる。

 なにせ、昨年のゴールデンウィーク前から夏場にかけてのガソリン価格の高騰ぶりは凄まじかった。あの頃は米国で燃費の良い「シビック」や「アコード」は完全にタマ不足になっていた。その後は、ご存知の通り、原油価格は元に戻り、米国金融危機を発端とする世界的な経済危機が発生したが、基本的にこの低燃費化、小型化という大きな流れは変っていないと思う。

 端的に言って、石油を含めた資源の地球規模での需給バランスは大きく変った。世界の景気が回復基調になれば、間違いなく原油価格は再び上昇に転じるだろう。ガソリン価格が再び1ガロン当たり3ドル以上の高いレベルに上昇するのは時間の問題だと思う。いまや、低燃費で二酸化炭素も出さない、そういうクルマをメーカーが提供しないと許されない時代になったということだ。