「あのな、いっちゃん。モーツァルトっておるやろ。なんと700曲も作った、天才音楽家やねん」
「はい、もちろん、知ってます。モーツァルト、有名すぎますから」
「あのモーツァルトだってな、童心まるだしで有名やったんや。子どものようないたずらじみた行動をするわ、浪費家だわ、遊んでばかりいるわ、ほかの人が演奏するオペラに口出しして中断させるわ、そら完~全に、童心まるだし炸裂やねんて。でもな、モーツァルトは童心をずっと失わんかったから、『フィガロの結婚』とか、『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』とかな、200年以上たっても語り継がれるような名曲が、たくさん作れたんやんか」
「兄貴、あの、モーツァルトが、そうだったなんて、はじめて知りました」
兄貴は、ニッと笑うと、カップラーメンを一気に平らげ、「これは、完~全に余裕でおかわりやな……いっちゃんも、食べるやろ」と、言って、パンッパンッ!とお手伝いさんを呼んだ。
「いっちゃんな、大人ぶらずにな、自分に正直に『童心』を出したらええねんて」
「はい」
「自分の『童心』とか『好奇心』を大切にするんやて。いろんなことに興味を持つ。『そんなことは大人がすることではない』なんてな、大人ぶってはいけないんや。童心を大切に温存し続けている大人というのは、元気やし、覇気(はき)があるし、人に好かれるんやて。童心がない大人にはな、やっぱり成功もないんや」
兄貴は、タバコに火をつけると、プカプカと、白い煙をはき出した。
「それにな、いっちゃん」
「はい、兄貴、なんでしょう」
「童心があると『目がキラキラ、生き生きする』んやて。そんなやつ、ごっつい、さわやかやろ?せやからな、自分の『目』が、今、キラキラしてますか?ってことやねん。のう?」
兄貴は、得意げな顔をして、ニッと笑った。
「なるほど、兄貴。親が子どもに対して『あれはあぶないからダメ』『これは失敗する確率が高いからダメ』と注意をしすぎた結果、今は、子どもたちでさえ、童心がなくなってきています。この間、数年ぶりに、泥んこになって『ザリガニ釣り』をしている子どもたちを見て、僕なんかは、昔を思い出して、すごく嬉しくなりました。今の子どもたちの遊びは、『ゲーム』とかが多くなってしまって、それに『習い事』もすごく多くて、なかなか、外で泥んこになって遊ぶ子どもを、見なくなってしまいましたからね」
お手伝いさんが、どかどかと、カップラーメンのおかわりを運んでくると、兄貴は、ズルルッ、ズルルッと、麺をふたすすりして言った。
「あのな、それは、結局、親が子どもに、泥んこ遊びをさせんようにしてるんやて。そんなに泥んこに汚したら、洗濯機がポーン潰れるとかな、バイキン入ったらどうすんのとかな、そんなんばっかり気にしているんやて」
「はい」
「そんなんな、泥んこにしてきたら、風呂にボーンと放りこんだら終いの話やんけ。バイキン入ったら、ごっつい免疫力がつくねんて。そんなの余裕やて。あ~、それくらいの感覚の親が一番さわやかやな。やっぱりな、親が子どもを過保護にしてもうたらな、幸せと成功に最も大切な『童心』を、すでに子どもの段階から、失わせてしまうんやて」
兄貴は、「あ~これ、完全に間違いないで」と言うと、ニッと笑った。