「兄貴、つまり結局は、自分の足で会いにいくことが大切なんでしょうか。フェイスブックやメール上で何回かやりとりしただけでは、お互いのことがわからないわけですよね」
  兄貴は、火のついたタバコを指ではさみながら、片目を閉じて、こう言った。

「フェイスブックやメールで、深刻な悩みとかを尋ねてこようとしているヤツがいてるけど、アホか、と思うで。そんな甘いもんと違うんや。人が人を大切にしたり、思いやるっちゅうもんはな、同じ空気を吸うとか、同じ時間を共有するとか、同じ釜の飯を食うての『つながり』なんやて」
「はい…」

「フェイスブックやメールをやっていれば、『つながってる』と思うとるヤツは勘違いしとるな。そんなのは本当の『つながってる』とは違うんや。だってな、会(お)うたこともない人を大切にしたりな、会(お)うたこともない人とつながれるわけがないやんけ」
「確かに、兄貴のおっしゃるとおりですね」

 兄貴は、バフーと、白い煙をはき出すと、ニッと笑った。

「オレの場合はな、みんながボーボー、バリ島に来よるから、バリ島を離れられんという理由があるんやけどな。せやから、オレは、いつでも『おいでよ』『会おうや』の一点張りや。それしか言わんで。そうじゃないとな…」
  兄貴は、完全に言い放った。

「『相手を大切にする心』が、怠(なま)けてしまうからや」
  兄貴は、得意げな顔をして、ニッと笑った。

「だからみんな、ボーボー、バリ島に遊びに来たらええ。会いに来てくれれば、誰でも大歓迎や」
「たとえば、この1年とかで、兄貴のところには、何人くらいの人が来ているのですか?」

「日本からだけでも、1年間で400人くらいが来てるわな。『今後、兄貴のところ行きますよ~!』と、言うてる予備軍かて、そら、数百人はおるで」
「と、とんでもない数ですね」

「でも、それが、正解なんやて。実際に会わないとな、人間なんかわからへんやろ。それに、実際に会うてるヤツのほうが、何十倍も親近感があるやろ。だって『会っている』んやから」
「確かにそうです」

「せやろ。会っているから親近感があり、親近感があるから気遣(きづか)えたり、応援したくなったりするんやて。会ってもいないのに『相手を大切にして応援し合う』とかって、そんなん、無理やろ」
「兄貴、本当に、そうですね」
  兄貴は、タバコを顔の横でくゆらせながら、ニッと笑った。