自民党を勉強して民主化を
進めていた時代に戻るべき

 あえて大胆にいえば、中国共産党が独立派を排除したことは分からないでもないが、民主派を排除する必要はなかったのではないだろうか。政治家になろうとした民主派の若者の言い分をある程度取り入れて香港の民主主義を認めながら、「豊かな香港社会」を築き、安定した統治を実現するというやり方はあり得たからだ。

 要するに、無理やり権威主義を押し付け、些細な批判に対して「中国を侮辱した」として独立派とともに民主派まで排除してしまった中国共産党の狭量さが、今回の「失敗」の大きな原因となったのではないだろうか。

 中国共産党は、少なくとも胡錦濤国家主席の時代までは、日本の自由民主党を研究してきたといわれる。共産党は、中国の近代化プロセスを、第1段階で経済発展、第2段階で社会政策、そして第3段階が民主化と考えてきた。現在は第2段階で、貧富の格差縮小、社会保障政策の強化、情報化への対応、民度向上などを進めている(時事ドットコム「特集 中国建国60年」)。

本連載の著者、上久保誠人氏の単著本が発売しました。『逆説の地政学:「常識」と「非常識」が逆転した国際政治を英国が真ん中の世界地図で読み解く』(晃洋書房)

 そして、それは将来的に本格的な直接選挙や言論の自由など欧米型の民主化を導入するための準備ともいえた。ただし、中国共産党はそれでも政権の座から絶対に落ちない一党支配の「永久政権」でありたい。その参考としたのが、民主主義ながら、全国の津々浦々に利益誘導と選挙の集票のネットワークを築き、一党支配体制を確立してきた日本の自民党だったということだ。

 しかし、習近平国家主席の時代になり、急激な経済発展・軍事力の拡大を実現した中国は、民主化しなくてもやっていけると過信した。むしろ中国の権威主義体制を、欧米式の民主主義に代わる「世界の政治体制のモデル」と考えるようになったといえる。

 だが、香港における「逃亡犯条例」改正の先送りという「失敗」は、中国共産党の「無謬性」神話を崩壊させ、「中国モデルの政治体制」などありえないことを痛感する契機となるかもしれない。中国共産党は、自民党を研究してきた時代に戻り、将来の普通選挙、言論の自由の導入を前提として、少しずつ民主化を進めるという方向に戻るべきである。

(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)