2年生のとき、Aさんは転校して、新しい環境に変わった。通常、環境が一新されたのをきっかけに、話せるようになることも多い。

「ところが、自分の中でまだ、話せるような準備が整っていなかったんです。クラスメートも、しゃべらない自分が珍しかったらしくて、“しゃべって”って、追いかけられたりしました」

 新しい学級の担任の女性教諭からは、「なんで、しゃべらないの?」と責められた。歌のテストのとき、歌えなくてじっとしていると、廊下に出るよう、命じられる。

 運動によって自信が積み重なったり、こうして自信が崩れたりの繰り返しだった。

 3年生のとき、再び引っ越しで、学年の途中からクラスに入った。

「しゃべってやろうという気持ちがあったので、最初のうちは、頑張ってしゃべれたんです。でも、3日後には元に戻って、しゃべれなくなりました。勉強の進み方もまったく違う。算数がわからなくて、担任の先生にマンツーマンで教えてもらい、次のテストで満点を取ったら、クラス内にうまく入っていくことができました。そういう運の要素が大きい気がします」

他人と関わらないよう
自分の力だけで解決する傾向も

 中学に入る頃から、普通のサラリーマンにはなれないだろうなと、漠然と感じていた。

 自宅ではよくしゃべっていた。そのギャップがあまりに大きくて、自分はおかしいことを自覚し始めた。

 それだけに、何かを忘れるとか、ミスをしないように生きてきたという。

 緘黙症に詳しい関西外国語大学・国際言語学部学生相談室の成瀬智仁講師(臨床心理士)は、こう説明する。

「緘黙の人は、ミスをしないように生きている。他人に頼めればいいけど、他人に聞かないで済ませられるようにと、一生懸命に考えているから、しんどいんですね」

 他人の助けを借りず、自分の力だけで解決しようと頑張るあまり、疲れてしまう。これは、引きこもる人たちにもほぼ共通する特徴だ。