引きこもり状態の家庭ではしばしば暴力行為がみられる写真はイメージです Photo:PIXTA

「引きこもり状態」の子どもがいる家庭ではしばしば暴力行為が見られる。このような家庭内暴力にはどのように対処すべきか。筆者のカウンセリングしたケースで、その対処法を説明する。(ストレス・マネジメント研究者 舟木彩乃)

引きこもりによる家庭内暴力への
対処のポイント

 私は、今まで約8000人のカウンセリングをしてきました。その中で「引きこもり」についての相談はほとんど親の側からであり、引きこもっている子どもの側から相談を受けることは、あまりありませんでした。このことは、引きこもりの本人が他者とつながることの難しさを表しています。

「引きこもり状態」の子どもがいる家庭では、しばしば暴力行為が見られますが、その発生率はよく分かっていません。一言で「家庭内暴力」といっても、慢性や一過性などさまざまなタイプがあります。家庭内暴力は「特定の疾病」を示すものではないために、包括的で信頼できるデータが乏しいからです。

 家庭内暴力は、「悲劇」が起こるまで表面化しにくい、という特徴があります。

 長男を殺害したとして送検された元農水次官・熊沢英昭被告は、長男が引きこもりがちになった中学生頃から、両親に対する暴力が始まったと供述しています。長男は10年以上前から別居していましたが、5月下旬に実家に戻った後、再び暴力が始まったということです。しかし、区役所など行政は、熊沢容疑者から相談が寄せられたことはなかったと言っています。

 引きこもり状態における「家庭内暴力」の対処ポイントは、「密室化」と「リミットセッティング」です。この2つのポイントを具体的に説明する前に、私がカウンセリングでかかわった事例をご紹介します。