米国の政治の世界は完全に常軌を逸している。それまでの前例が破られ、決して超えられそうにない新たな基準が設けられたかのように思えても、すぐにまたそれが破られる出来事が繰り返された。始まりは1992年の大統領選かもしれない。ビル・クリントン氏は通常であれば政治家生命をそこで終えたであろう女性スキャンダルに直面しながら、厚かましくも離脱を拒んだ。それに続いたのが、同氏に対する弾劾、2000年大統領選を巡るブッシュ対ゴア裁判で最高裁が下した5対4の判決、ジム・ジェフォーズ議員の共和党離党とそれによる民主党の上院支配、医療保険制度改革法(オバマケア)を救うことになったジョン・ロバーツ連邦最高裁長官の心変わり、全米での同性婚を5対4で認めた判決の一環をなすアンソニー・ケネディ判事の意見。いずれも一世代に一度しか起きないような出来事だ。だが米国の政治の狂気は16年大統領選中に新たな水準に陥った。