実質的には「正社員の年功賃金を守る」措置

 派遣社員にまで年功賃金を適用することを派遣会社に強制する今回の行政指導は、実質的には正社員の年功賃金を守るためのものといえる。競争相手である派遣社員の賃金を無理矢理に年功型にすることで、見かけ上は派遣社員の利益となることを装いながら、その実態は「正社員の保護主義」を狙っている。

 派遣社員がなぜ労働界で嫌われるかといえば、それは派遣社員の労働市場が日本では希な年齢や勤続年数によらない「職種別の同一労働同一賃金」の世界であるためだ。派遣社員の労働はその人の持つ専門的な経験や能力に応じて適正に評価されるもので、派遣先のジェネラリストの正社員と単純に比較すること自体には大きな問題がある。

 派遣社員は予め明確な雇用契約と賃金にもとづく欧米型の働き方であり、所定の職務を行う能力が不足すれば雇用契約が更新されない。このため、継続して雇用される派遣社員は基本的に優れた労働者である。

 そうした優秀な派遣社員が職場で増えれば、優秀でない正社員にとって目障りなことが、3年間の雇用契約制限が設けられたことの隠れた要因ではないか。「いつまでも派遣社員のままでは可哀そう」というのはよけいなお世話なのである。

 派遣社員は、職種・勤務地・労働時間等が限定された、とくに共働き世帯にとっては望ましい働き方であり、それらが無限定な正社員とは対照的である。また、3年ごとに仕事に慣れた職場を離れることは、派遣社員とその雇用主にとって大きな迷惑であり、いわば「行政による解雇の強制」といえる。

 なかでも、優秀な派遣社員は争奪戦になるため、厚労省が余計な介入をしなくとも市場競争を通じて、契約更新ごとに賃金は高まる。現に派遣社員の賃金は、労働市場の需給に敏感に反映しており、最近の人手不足を反映して急速に上昇している。むしろ、仮に3年で3割増しというような画一的な年功賃金が強制されれば、それほど優秀でない派遣社員は仕事を失う可能性も大きい。

 欧米の派遣法は、派遣労働の自由化と派遣社員の保護が二本柱である。これは日本の「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」という長い名称でも同じだが、その実態は「派遣社員との競争から正社員を守る」ものと化しているのが日本の派遣法の特徴である。