◇夫婦間の承認欲求の危うさ

 職場復帰後に出世とは縁遠いキャリアコースに固定される「マミートラック」に乗ってしまい、思うようなキャリアを実現できない妻と、仕事が多忙なあまり父親としての役目を果たせないことに悩む夫。彼らの関係を歪めてしまっているのは、行き過ぎた承認欲求である。

 妻は、「マミートラック」に苦悩しているにもかかわらず、夫からは「仕事で頑張っている妻」と思われたい。夫は、「パタニティ・ハラスメント」を受けるなどして仕事に支障が出ていながらも、家庭では「イクメン」を装い、妻から「頼りになる夫」と評価されたいと思っている。

 だが結局のところ、いずれも承認欲求を満たすことはできていない。その結果、「幻想」の中に理想の夫婦像を追い求めることになってしまうのだ。

◆事例(2)居場所のない夫
◇「男は仕事、女は家庭」志向の男性

 今なお、「夫は仕事」「妻は家庭」という夫婦像を理想としている男女も多い。

 30歳の横井浩次さん(仮名)は、自身の理想についてこう語った。「やっぱり女性は結婚、出産したら家事・育児に専念するべきですよ」。そして実際に、そのような理想を叶えてくれそうな女性と結婚した。

 異変の兆しが現れたのは、第2子が産まれて2年経った頃のこと。横井さんは39歳になっていた。その表情には憂いのようなものが見受けられ、珍しく歯切れが悪いことも気にかかった。

 横井さんによると、夫婦のあり方が変わりつつあるという。妻は出産後、精神状態が悪くなり、塞ぎ込んでしまった。「私が必死になって働いて嫁さんと子どもを養っているのに……前のように私を敬ったり、ねぎらったりする言葉がちっとも出てこないんです」。妻の様子を思いやるのではなく、自分に対する妻の態度の変化ばかり気にしている横井さんに、著者は違和感を覚えざるをえなかった。