『役所窓口で1日200件を解決! 指導企業1000社のすごいコンサルタントが教えている クレーム対応 最強の話しかた』の著者でクレーム対応のプロ、山下由美さんがこれまでにない画期的なクレーム対応の話しかたを初公開。「怒鳴る」「キレる」「自分が正しいと言い張る」「理詰めで責める」「言い分が見当違い」「多人数で取り囲む」「シニアクレーマー」などあらゆるお客さまからのクレームを、たったひと言「そうなんです」と言わせるだけで解決します。

親切心は逆効果に!? クレーム対応で本当に大切なこと

激しく怒るお客さまの興奮を鎮めるための「超共感術」

 お客さまに「そうなんです」(YES)と言わせるだけでクレームを解決する超共感法。まずはお客さまにYES言葉を口にさせることで、こちらを「敵」ではなく「味方」として認識させ、話を聞いてもらえる状態に導くことで、クレームをこじらせずに解決にします。

 特に激しい怒りのさ中にいるお客さまは、何を言っても否定されるだけです。お客さまが初めに望んでいることは、自分の窮状を理解してもらうことです。私たちが医者に診てもらうときも同じですよね。結果的に処方される薬は同じでも、「咳が止まらなくて大変でしょう」の一言があるかどうかで、その医者への印象がまったく違ってくるものです。

 実際にあったケースを題材に、超共感法のアプローチ方法を見ていきましょう。

ケース:バス運転手の親切心があだに
 その日は全国的に雪の予報で、至る所で交通渋滞が起き、長距離バスにも遅れが発生。特に山間を走っているバスの遅れはひどく、峠の通行止めなどで迂回しながらの運行となりました。終点に着いたのは、予定時間を4時間超過した22時すぎでした。

 その夜、バス会社に乗客からクレームの電話が入りました。その乗客によると、バスが駅に着いた時にはすでに終電が出てしまった後だったといいます。目的地にも行けず、駅前になかなかタクシーも来ない。近隣のホテルに電話を入れてみるもののすべて満室……。

 困り果てて、まだ停車中の先ほどのバスの運転手に相談したところ、〇〇というホテルを紹介されました。ところが、雪の中、徒歩で15分ほどかけてたどり着いたそこは男性専用のカプセルホテルでした。3歳と5歳の子連れの夫婦が泊まれる場所ではありません。

「雪で到着が遅れるのは仕方がないにしても、親子が困っているのにカプセルホテルを紹介するなんてあり得ないだろ! あの非常識な運転手をクビにしろ!!」

 クレームを受けたスタッフも、乗客のことを気の毒に思いました。普段ならその物言いに嫌な気分になっても不思議ではありませんが、夜中に泊まるところも、怒りをぶつける先もなく、電話をかけてきたのでしょう。

 かといって、運転手も悪気があったわけではないはずです。乗客に尋ねられて、一緒に焦った気持ちで頭に浮かんだ「確実に泊まれるホテル」がそこだったのでしょう。子ども連れであることが頭から飛んでいたとしても、責められるものではありません。親切心がアダになってしまったとしか、言いようがありませんでした……。

 このケース、あなたがバス会社の職員ならどう対応しますか? 次の対応の中で、クレームのお客さまに「そうなんです」と言わせることのできるのはどれでしょう。

(1)「申し訳ありません。今日は道路状況で至る所で遅延が発生していて、私どもではどうすることもできません。目的地に到着以降のことにつきましては責任を負いかねます」
(2)「おそらく運転手もカプセルホテルだとは知らなかったのだと思います。申し訳ありません、運転手にはきつく言っておきます」
(3)「えっ⁉ それで、今お子さんたちはどうなさってるんですか?」

 「(1)」のようなお客さまの窮状を汲み取ることのない突き放した言い方は、ますます怒らせるだけです。「そんなことはわかってるよ! 親子連れなのに、運転手の対応が悪いって言ってるのがわからないのかよ!!」と責められそうです。

 「(2)」は一見謝っているようですが、相手からすればただの言い訳です。そうして火を着けてしまうと、「『言っておく』とはなんだ? クビにしろって言ってるんだよ!」と言い返されて、話の焦点が「クビにするかどうか」に移って余計に話がこじれそうです。

 正解は「3」です。「お子さんたちはどうなさってるんですか?」という問いかけは「そうなんです」と答えられる内容になっていませんが、相手が理解してほしいのは運転手のミスではなく、“子どもが大変な目に遭っている”ことです。

 このケースのように、命やケガにかかわる問題については、無事の確認が最優先です。責任については後回しでかまいません。まずはお客さまの身を一番に考えていることを伝えることで、興奮を鎮めるのが先決です。

 実際、お客さまからは「頼み込んで、子どもはホテルのロビーで寝かせてもらってるよ」と返事があり、わずかにトーンダウンしたそうです。

「そうなんです」は、複数回言わせるとより効果的

 こうした情報をもらえればしめたものです。間髪入れずに「よかったです! ホッとしました」と心から喜びを伝えましょう。そのうえでお客さまに「そうだよ(そうなんです)」を言わせる準備に入ります。

 多少、お客さまが冷静さを取り戻しつつあるとはいえ、家族の危機を招いたこのケースでは、またすぐに怒りに火がつくとも限りません。「そうなんです」は1度ではなく、2度、3度言わせたいところです。YES言葉を重ねて口にしてもらうことで、お客さまの脳と心は変化していきます。

「遅延のせいで大変なご苦労をおかけいたしました」
「今日は本当に冷え込んでいますので、お子さまのことが一番心配でしたね」
「話のわかるホテルスタッフでよかったです」

 こうした言葉がけで「そうなんです」を何度か言わせた後に、「運転手もあまり知らない土地で間違ったご案内をしてしまいました。今後、不確定な情報は控えるよう指導を徹底します。ぜひ、またお気づきの点などございましたら、ご一報いただけると幸いです」というように締めることができたら、最高の終わり方だと思います。

 クレームに対する言い訳や正しい説明から始めると、かえって受け入れを拒否されてしまいます。それよりも、まず初期段階でお客さまの「そうなんです」という言葉を引き出すような人としての自然な思いやりが、クレーム解決の武器になります。