ヨーロッパの舞台やスペイン代表として一時代を築き、世界中の老若男女から「神の子」として愛されてきたFWフェルナンド・トーレスが、J1のサガン鳥栖の一員として現役に別れを告げた。サッカー人生最後の対戦相手に指定したヴィッセル神戸には同じ1984年生まれの35歳で、母国の代表として数々の栄光をともに手にしてきたアンドレス・イニエスタがいた。少年時代から友情を育み、ともに昨夏から日本でプレーしてきた2人の太く、強い絆を追った。(ノンフィクションライター 藤江直人)
12歳からの盟友だった2人
「彼との対決でサッカー人生に別れを」
以心伝心で何度も目が合った。キックオフ前に両チームの選手が集まった時に。キャプテン同士で行ったコイントスを終えた直後に。そして、引退セレモニーのクライマックスで。フェルナンド・トーレスとアンドレス・イニエスタはその度に抱き合い、至福の瞬間を共有した。
ともに8月23日を待ち焦がれてきた。ちょうど2ヵ月前の6月23日。シーズン途中での現役引退を突然表明したトーレスが最後の試合として希望したのが、サガン鳥栖のホーム、駅前不動産スタジアムにヴィッセル神戸を迎える明治安田生命J1リーグ第24節だった。
「古くからの友人アンドレスとの対決で、サッカー人生に別れを告げたかった」
エゴイストが適しているといわれるストライカーの中で希少価値に入るほど誠実で、自己犠牲を厭わないトーレスは、6月の引退表明会見でこんな言葉を残している。サガンに加入して1年あまり。おそらくは最初で最後となるわがままに、イニエスタも万感の思いを抑え切れなかった。
「トーレスの引退試合を日本で、自分が対戦相手になって戦うのは本当に不思議な出来事だと思う。何よりも彼との友情や、彼の素晴らしい人間性を大切に受け止めている」
アトレティコ・マドリードのエースストライカーと、FCバルセロナのプレーメイカーとして何度も対峙。スペイン代表としても数々の栄光を共有してきた、1984年生まれのトーレスとイニエスタの間で紡がれてきた絆をさかのぼっていくと、12歳の時に出場したある大会に行き着く。