人類は50年前に月に降り立った。それは米国の創造力、勇気、そしてとりわけ技術が成し遂げた大きな偉業だった。宇宙開発競争の中で生み出された技術的発見は、何十年にもわたって技術革新(イノベーション)の原動力となってきた。しかし、その50年を経て筆者は、今日のハイテク業界が米国人にどんな恩恵をもたらしているのか、疑問を抱いている。物理学のイノベーション、つまり現実世界のイノベーションの前進速度は鈍っている。そして、主要産業の製造プロセスにおける米国の優位性は失われつつある。また、われわれが暮らす都市や街の風景は、50年前とほとんど変わっていない。シリコンバレーと、そこを支配する3、4社の巨大企業が、情報共有を容易にしてきたことは間違いない。しかし、現代のスマートフォン、検索エンジン、デジタル化されたソーシャルネットワークなどは、10年以上前に発明されたものだ。今日ハイテク大手によるイノベーションとみなされているものは、画期的な新製品、新サービスではなく、これまでになく高度化されていく市民搾取の手段である。