アップルの新製品発表会Photo:Reuters

――WSJの人気コラム「ハード・オン・ザ・ストリート」

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 「iPhone(アイフォーン)」の販売台数が向こう1年でこれまで以上に増えることはないだろう。ただ少なくともアップルは、顧客に買い控えを促すような、さらなる口実は与えていない。

 長丁場に及んだ10日の新製品発表会で、数少ないサプライズの1つがiPhoneの値上げ見送りだった。新型3機種のうちハイエンドモデルの「iPhone11 Pro(プロ)」は1000ドル(約10万8000円)もしくはそれ以上と高額だ。だが、これは昨年発売の高額機種と変わらない価格だ。

 一方、普及モデル「iPhone11」は700ドルを下回る価格設定とした。一部の旧機種の価格も引き下げ、昨年発売の「iPhone XR(テン・アール)」は20%の値下げに踏み切る。つまり、iPhoneは機種の数がやや絞られる一方で、600ドル以下で購入できる選択肢が増えることになる。

 これは、過去数年の流れとは明らかに違う。アップルを含む各スマホメーカーは、高額戦略で顧客の懐具合を試していた。また米中の貿易摩擦が激化する状況を踏まえても注目に値する動きだ。アップルなど中国で製品を生産する米企業にとっては、関税のリスクが消えたわけではない。トランプ政権が対中関税の発動を遅らせたことで、月内に発売される新型iPhoneは妨害されずに済むかもしれない。しかし貿易摩擦により、今月から始まるアップルの新会計年度の先行きには、なお不透明感が漂っている。

 そのため、アップルがついにiPhoneの値上げを見送ったのは賢明な判断と言える。同社は既存ユーザーを満足させ、できる限り新型iPhoneに買い替えてもらう必要がある。アップルは新型端末の購入者には、近く開始する動画配信サービス「 TV+(テレビプラス)」の1年間無料体験を提供すると明らかにしており、それも顧客への訴求力を強めるだろう。

 とはいえ、向こう1年は厳しい年になりそうだ。市場調査会社インターナショナル・データ・コーポレーション(IDC)が9日公表したデータによると、今年の世界スマホ出荷台数は前年比2%減と、3年連続のマイナスが予想されている。

 次世代通信規格「5G(第5世代)」サービス導入により、来年には需要が好転すると見込まれているが、これも確実ではない。いずれにせよ、アップルが5G対応のiPhoneを発売するのは来年の秋以降となる公算が大きい。だが今回については少なくとも、これ以上の顧客離れを招くような価格設定にはしなかったと言えそうだ。

(The Wall Street Journal/Dan Gallagher)