前回は米国エリサ法(ERISA・従業員退職所得保障法)の成り立ちとその国家戦略的意味を俯瞰したが、今回はそれをさらに深堀りし、日本がなぜ年金運用を国家戦略にしなければならないのかを論じる。
AIJ問題を受けて、昨今、各党・省庁で企業年金制度の見直しの議論が進んでいるが、表層的・場当たり的な制度改正以前に、日本再興のために、年金資産運用のあり方をもっと大きな国家戦略の域にまで高め、政策の最優先課題にすることこそ、今求められているのである。
まずは、一般読者には若干専門的すぎるかもしれないが、エリサ法の目的と構成を再確認し、その上で米国の実例を基に、日本が進むべき道を論じることにしたい。各党・省庁での議論の参考にして戴ければ幸いである。
エリサ法の目的と構成
はどうなっているか
(1)目的と構成
エリサ法は、従業員給付制度の加入者と受給権者の利益を保護するために制定され、4つの章から構成される。
第I章で、最低加入基準、受給権付与、及び同法がカバーする年金制度の積立基準を規定し、さらには制度を管理する者に対する受認者行為基準を定めている(受認とは“fiducially”の法律的に正確な和訳であり、「受任」と大きな違いはない)。
第II章は、具体的には税法で法文化されているが、課税上優遇される年金制度の適格性に関する内国歳入法の規定―特にエリサ法第Ⅰ章の基準を順守しているかどうかの規定―を行っている。
第III章では連邦諸庁の強制力の統一を図る規定が置かれ、第IV章では年金給付公社(PBGC)の設立を定め、給付全額の支払に十分なファンドがない年金制度の終了において、給付を毀損から守るための保険プログラムが定められている。(判例:Raymond B. Yates, M.D., P. C. Profit sharing plan. v. Hendon Trustee〈U.S. Supreme Court March 2, 2004 からの引用〉)