イタリアといえばオペラの本場ですが、そもそもなぜイタリアでオペラは発展したのか…? イタリアの人気音楽プロデューサーで、ドニゼッティ音楽祭芸術監督で演出家のフランチェスコ・ミケーリ氏に、クラシック初心者のビジネスパーソンにお薦めのオペラを挙げてもらった前回に続いて、イタリア=オペラの親和性について聞いていきます(10月3日発売書籍『クラシック名曲全史』制作にまつわるインタビュー。聞き手は同書著者の松田亜有子氏、翻訳は井内美香氏)。

Q.多くの人は、クラシック音楽といえば、ドイツ、オーストリアをイメージし、ベートーヴェン、モーツァルト、バッハ、ブラームス等、ドイツの作曲家を思い浮かべます。しかし歴史上、クラシック音楽はイタリアで生まれ、そうしたドイツの作曲家たちが生きていた当時は、イタリア人こそが音楽家であり、イタリアがクラシック音楽界の王様として君臨していました。現状のイメージのギャップについて、どう思いますか?

なぜイタリアでオペラが発展したのか? ドニゼッティ音楽祭芸術監督フランチェスコ・ミケーリ氏に聞くミケーリさん

 西洋のクラシック音楽は壮大で多種多様、複雑なものですが、いくつかの原則を指摘することは可能であり、迷わないために有益でしょう。たとえばドイツ語圏の国々は常に器楽曲に特別な注意を払ってきたのに対して、イタリアはすべての焦点を声と歌に合わせてきたということです。

 古典派のウィーン3人組--すなわちハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンが、オーケストラが表現力と感情に訴える途方もない可能性を明察していたことに議論の余地はありません。その潜在的なパワーは、続く数多の作曲家たちによって探索されていきますが、その多くはドイツ語圏の作曲家たちでした。

なぜイタリアでオペラが発展したのか? ドニゼッティ音楽祭芸術監督フランチェスコ・ミケーリ氏に聞く誰だかわかるかな?((1)はドイツ語を、(2)はイタリア語を母国語とする作曲家です。答えは記事の一番最後に)
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 ではイタリアでは? 

 まず指摘すべきは、(古の詩人、ダンテ・アリギエーリやフランチェスコ・ペトラルカ、ジョヴァンニ・ボッカッチョらのおかげで)私たちイタリア人の言葉は信じ難いほどの音楽的な性質を発達させた、ということです。もし皆さんがミラノやパレルモの通りを散歩したなら、ごく普通の日常生活を送る人々がどのように話しているか聞いて驚くでしょう。イタリアでは誰もが歌っているような--まるで一人ひとりの肩に伴奏を奏でる小さなオーケストラが乗っているかのようなのです。

 このような特質に加えて、イタリア人は自身の感情--もっとも内面的な感情をも含めて、極めて率直に表現する人種であるということも、オペラの発展と無縁ではないでしょう。二人のイタリア人が互いに好意を持てば、特別な理由がなくてもしばしば抱き合います。一般的に、我々イタリア人が頭の中で考えていることはすぐに、すべて身振り手振りに表れるのです。

 イタリア人の音楽家たちにとって、イタリア半島の住人たちがその声と身体で繰り広げる感情表出の並外れた演劇性を舞台で披露するに当たって、声に焦点を当てることは自然であり、ほとんど義務でもあったことは明白です。オペラは、このようにして生まれたのです。

 18世紀、世界は文字通りイタリア・オペラに熱狂しました。今日の世界においても、国際的な大都市であると認められたい街は、最低一つはオペラ劇場を持っているはずです。この芸術が誕生して、すぐに世界のすべての人々はイタリアに夢中になりました。すべての人々が、美しすぎるゆえにまるで劇場の舞台装置にさえ見えるこの国に来たいと望んだのです。

 イタリアは素晴らしく美しい国です。なぜなら、あらゆるものが力を合わせて、並外れて美しい私たちの国に命を与えているからです。人々の情愛に加えて、美味しい食べ物があり、美しい景観があり、素晴らしい地中海の気候がある。

 さらに、イタリアのあらゆる街にはオペラ劇場があります。ナポリのサン・カルロ歌劇場のような大きなものから、山村の住人を受け入れられる程度の小さな劇場まで、多種多様なそれらは、特徴的な馬蹄形の様式で造られ、すべてが素晴らしいものです。私たちの国において、今なお国際的なレベルのオペラ活動がそこここで行われているのは驚くべきことです。ミラノ・スカラ座は今も世界で最も重要な劇場であり続け、ベルガモやペーザロのような小さな街でも、それぞれドニゼッティとロッシーニに捧げられた重要な音楽祭を開催しています。

 しかしながら、声に加えて優れたオーケストラがなければ、オペラの上演はできません。

 ですからイタリアはこの点において、器楽曲に大きな寄与をしたドイツ人作曲家たちの恩恵を受けています。それでも、偉大な西洋音楽はイタリアで生まれたという事実は変わりません。アレグロ・コン・ブリオ(速く、生気に満ちて快活に)…アンダンテ・コン・モート(適度にゆるやかに、動きをもって)…クレッシェンド(しだいに強く)…ディミヌエンド(しだいに弱く)…。今も世界中で使われている音楽用語はすべてイタリア語である、という事実が、それをはっきりと示しているでしょう。

<答えあわせ> 図表中の顔は、それぞれ左から、(1)ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、(2)ヴィヴァルディ、ロッシーニ、ヴェルディでした。