アマデウスに、イヴ・サンローラン!? 書籍『クラシック音楽全史 ビジネスに効く世界の教養』の巻末には、「クラシック音楽が観て楽しめる映画30選」を掲載しています。寒い冬の休日には、この中から選んだ映画を暖かい部屋でゆっくり楽しむのもおススメ。書籍で紹介した映画のなかから、特におすすめの作品を元東京フィルハーモニー交響楽団広報渉外部長である『クラシック音楽全史』著者・松田亜有子さんに聞きました。

 ぜひ観ていただきたい映画を選ぶには……どれもおススメなので難しいですけれど、まず筆頭は、音楽映画史上、最大の傑作にして永遠の名作といわれる『サウンド・オブ・ミュージック1965年、アメリカ、監督ロバート・ワイズ、主演ジュリー・アンドリュース)と、モーツァルトを描いた大ヒット映画『アマデウス』(1984年、アメリカ、監督ミロス・フォアマン、主演F・マーリー・エイブラハム)でしょうか。どちらも、クラシック音楽の世界では定番中の定番であり、名作です。

『イヴ・サンローラン』(2014年、フランス、監督ジャリル・レスペール、主演ピエール・ニネ)

 フランスの国宝とも言われた天才デザイナーを描いた『イヴ・サンローラン』は、特に私が好きな映画です。劇中に流れるマリア・カラスの歌声に代表される音楽と映像の美しさもさることながら、鬼才サンローランを支えたパトロンでもあり、パートナーであったピエール・ベルジェの存在の大きさを感じさせてくれます。

 作曲家にパトロンがいたように、やはりアーティストたちには理解者が不可欠なんだ、とあらためて痛感します。ベートーヴェンもしかり。その才能を見出すプロデューサーがいないと世に出られないし、またそういう人と会えるのも「運」なのかもしれません。

 ベルジェはサンローランとの絆について、2010年に米「WWD」で次のように語っていました。

「私たち2人は、ぴったりとはまるように作られたパズルのピースのようだった。お金、ビジネス、ライセンス、店舗の開店、全て私なしには実現し得なかった仕事だ。しかし、世界で一番大きく、美しい飛行機は、ガソリンとそれを操縦できるパイロットなしには動かない。そしてその飛行機を操縦できる唯一の人物、それはイヴ・サンローランだ」。

 よろしければ、ぜひご覧になってみてください。

 ベルジェが亡くなった時には、フランス大統領も追悼文を出されましたが、フランスの文化界にとても大きな影響を与えた方でした。ベルジェには、一流を見出す力があったのだと思います。イヴ・サンローランだけでなく指揮者チョン・ミョンフン氏も、ベルジェより才能を見出され、パリのバスティーユ歌劇場音楽監督に就任しました。アジア差別の激しかった当時のヨーロッパのオペラハウスにおいて、韓国人のマエストロ・チョンが、正当にその才能を認められて音楽監督に就いたのは、ベルジェのおかげとも言われています。

 ある意味、フランス音楽の父であるジャン=バティスト・リュリ(1632-87年)を見出したルイ14世の存在とも似ているかもしれません。芸術の宝庫イタリアからオペラが入ってくるやいなや、イタリアのモノマネではなく、独自の様式をつくりあげていったフランスで、音楽を独自に発展させていった功労者がリュリです。ルイ14世はリュリの才能を見出し、引き立てました。

『王は踊る』(2000年、ベルギー・フランス・ドイツ、監督ジェラール・コルビオ、主演ブノワ・マジメル)

 リュリは、王が主催する豪華な祝宴に必要な、音量が大きく華やかな楽曲を作ったほか、芝居や歌唱、舞踊などを組み合わせたコメディ・バレというジャンルを確立させました。リュリの生涯を描いた映画『王は踊る』も是非ご覧になってみてください。

 絢爛豪華なバロック時代の宮廷芸術が具体的に描かれていて、バロック時代の衣装のほか、演奏する場の暗さ(当時はろうそくしかありませんでした!)もわかります。リュリは、指揮棒の重い杖で自分の足を突いてしまい、その傷から感染して亡くなってしまうのですが、この映画はそのショッキングな事故の場面から始まります。

 ほかにも、クラシック音楽がさまざまに楽しめる映画を書籍『クラシック音楽全史 ビジネスに効く世界の教養』に30作を紹介しています。この冬、同書を手に、部屋で映画を楽しんでみるのもいかがでしょうか。