やっと介護から解放された美乃梨さんを、新たな戦いが待っていた。相続だ。

 といっても、多少なりとも価値があるのは家の土地だけ。3人姉妹が相続できる分は限られていたし、美乃梨さんはこれまで、姉妹からの援助は受けずに義母の面倒を見てきたので、当然、姉妹は相続放棄すべきところだった。

 しかし、司法書士から相続放棄に関する書類が届くと、惜しくなったらしい。

「美乃梨さんは、おかあさんをいじめていたわよね。私はそんなあなたが許せない。だから、書類に印鑑は押さないわ」

 またごねる。

「分かりました。では、私はこの家と土地を売って出て行きます。お義姉さんたちには取り分を分配します。でも、お仏壇は引き取ってくださいね。お墓のお世話もお願いします」

「なんですって、この鬼嫁が」

 3人姉妹は怒りまくり、話し合いは決裂した。この先、どうなってしまうのか。

 悩んでいたところ、美乃梨さん宅を襲ったのが土石流だった。家族は避難して無事だったが、土石流はすべてを破壊し、押し流した。この土地で家族を作り、泣いたり笑ったり、怒ったり、けんかしたり、美乃梨さんが暮らしてきた人生の痕跡は、すべて消えた。誰が引き取るかで問題になった仏壇も流された。

「お母さん、一緒に暮らそう。もう、その町を離れてもいいんじゃない」

 就職して結婚し、今は、200キロ以上離れた町で暮らしている長男が、呼んでくれた。ただ1人、一緒に暮らしていた三男坊も遠くの大きな町で職を見つけ、出ていくという。

「そうね、お父さんが亡くなってから私、一生懸命がんばったよね。もういいよね」

 土地を売り、長男の近所に引っ越す決意をした。お嫁さんに気を使わせたくないし、やっと1人になれたのだから、しばらくは、誰のお世話もしない生活を満喫したいと思っている。

(医療ジャーナリスト 木原洋美)