五輪,マラソン世界陸上ドーハ大会では、女子マラソンで猛暑のために棄権者が続出した Photo:EPA=JIJI

「東京五輪のマラソンと競歩を札幌開催に変更する」

 突然のニュースが日本中に衝撃を与えた。

 IOC(国際オリンピック委員会)トーマス・バッハ会長の『強権発動』を非難する声もある。確かに、既定の方針をこの時期に変更するのは通常なら許されない暴挙だろう。だが、その決断を下したのは、それほどに日本の猛暑が「看過できないもの」という認識に至ったからではないか。

暑さ指数31度以上「運動は原則禁止」
8月2日の東京はそれを超える

 気温30度を越える東京の猛暑の中でマラソンを走るのは、常軌を逸している。

 近年、スポーツと暑さに関して目安になっている「暑さ指数=WBGT(湿球黒球温度)」を手がかりにすれば明快だ。数字は気温とは異なり、「人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標で、人体の熱収支に与える影響の大きい (1)湿度、(2) 日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境、 (3)気温の3つを取り入れた指標だ。単位は気温と同じ摂氏度(℃)で示されるが、値は気温とは異なる。

(公財)日本スポーツ協会「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」(2019)によれば、暑さ指数31度以上は、『運動は原則禁止』とあり、「特別の場合以外は運動を中止する」とある。

 その下の28度から31度は『厳重警戒(激しい運動は中止)』で、「熱中症の危険性が高いので、激しい運動や持久走など体温が上昇しやすい運動は避ける。10~20分おきに休憩をとり水分・塩分の補給を行う」との指針が示されている。

 女子マラソンが予定されている8月2日に関して今年のデータを見ると、レースが終盤を迎える午前8時、東京のWBGTは31.0度。男子マラソンの行われる8月9日午前8時は30.9度。スタート予定時刻の午前6時でも、それぞれ2日は28.5度、9日は27.7度となっている。

 つまり、レースは『厳重警戒(激しい運動は中止)』の状態からスタートし、『運動は原則禁止』すべき領域に突入して佳境を迎える。