本書の物語もまた、販売の現場から幕を開ける。新聞には販売店というシステムがあり、ここが情報をユーザーに届け、料金を回収するといった流通機能の役割を果たす。ある販売店の経営者は小学校の副校長から、新聞を取っている家庭が少なくなっており、切り抜きを使った授業すらできなくなっているというショッキングな事実を聞かされる。それは、iPhoneが日本で発売された2008年の出来事であった。

読売新聞がヤフーニュースに記事提供
ライントピックス訴訟へ

 新聞社同士の顧客の奪い合いも、ネットにニュースを配信することの功罪も、電子版開設のひずみも、いつだって初動は販売の現場から起きる。かつて新聞社は、流通機能を自社の支配下に置くことで安定的な構造を作り上げてきた。しかしWEBプラットフォームという存在が、ジャーナリズムの足元を大きく揺さぶる。

 その代表格が、ヤフーニュースという存在であった。そして全国紙の中で一番早くYahoo!にニュース提供を始めたのが、販売の地位が段違いに高いとされる読売新聞であったことは運命の悪戯だったのだろうか。

 かつてスチュアート・ブランドが「Information want to be free」と言った通り、読売新聞のヤフーニュース配信によって、ユーザーはニュース記事をただで読むことにどんどん慣れていった。その先で起こったのが、今や判例の代表的な事例ともいわれる、ライントピックス訴訟である。

 これはヤフーに配信している記事の見出しをライントピックスが借用してヤフーに飛ばすことを、配信元の読売新聞が問題視しておこった裁判である。読売、ヤフーそしてライントピックス側の弁護士が、法廷で見出しの著作権をめぐって競り合った。

 それにしても、こんなに企業の法務セクションが全面に出てくるノンフィクションも珍しいだろう。今や読売新聞の社長に君臨する山口寿一も、その一人だ。ニュースのタダ乗りが争点となったライントピックス訴訟を皮切りに、部次長時代に始めたプロ野球関連の暴力団排除、日経・朝日と共同戦線を張った「あらたにす」の開設から、プロ野球を揺るがせた「清武の乱」の制圧まで。