――筆者のマーク・ヘルプリン氏は米シンクタンク「クレアモント研究所」の上級研究員。最新著書に「Paris in the Present Tense」がある
***
一度もスキーをしたことがない太った大男が、超上級スキーコースの頂上から滑り降り、途中の旗や木々や人々をなぎ倒していく――ドナルド・トランプ米大統領は間違いなく、彼の政権がこうした様子にたとえられることをうれしく思わないだろう。しかしトランプ政権は混乱ととめどない加速の中で、ともかくもかなり多くの仕事をうまくこなしてきた。その一つは、ケーブルニュース業界にはびこる見た目だけの女性ニュースキャスターや口を大きく開けた無能な人々にとっては理解の範囲を超え、目に見えないものだった。それは、これまでの共和・民主両党の怠慢な政権とは異なり、現在の政権が中国を核軍縮の枠組みに引き入れる必要性に取り組んだことだ。
中国の核兵器がまだ初期段階にあり、米国とソ連が何千発もの核弾頭とその搭載兵器を保有して、核の安定が2つの核超大国の間だけの問題だった時代には、それは不要だった。核戦略は、物理学の3力のつり合いのような問題を解決する必要がある。つまり2つではなく3つの物体が相互に作用する場合、予測可能性も安定性も失われるということだ。そのうち1つが(例えば軌道を周回する2つの惑星の間の小さな宇宙船、または米ソに比べ極めて小さかった中国の初期の核能力のように)極めて小さい場合以外はそうなる。