新卒で督促業界に入ったOLが、毎日、怒鳴られ、脅されながら、年間2000億円の債権を回収するまでを描き15万部のベストセラーとなった『督促OL修行日記』(文藝春秋刊)。その後も都内のコールセンターに身をひそめ、スキルと経験を積んでパワーアップした督促OLがクレーマー、カスハラ(カスタマー・ハラスメント)に逆襲する術を伝授する。
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先日、私が教育係をしていた一人の新人オペレータさんが辞めてしまった。ある日を境に連絡が取れなくなり、数日後コールセンターの出入りに使用するセキュリティカードと短い手紙だけがポツンと郵送されてきたのだ。
まだ20代前半の女の子だった。電話での案内は不慣れだったけれど、頑張り屋で素直な子だった。
最後の出勤となってしまった日に、彼女は一本の電話を取っていた。
たまたまシフト休みで当日出勤していなかった私が、その交渉記録を見つけたのは偶然だった。後日かかってきたそのお客様からの電話を取ったのだ。
「××を無料にしろ! 前に電話に出たオペレータに許可は取ってある!」
開口一番に出された要求と画面に映るお客様の情報に、私は「お」と思わず目を見張る。前回電話応対をしていたのが例の彼女だったからだ。
お客様の口から出たのは普段受け付けていないような無茶な要求だった。
「通常それは無料では承っていません。前に対応したオペレータとどのようなお話をしたか確認して折り返します!」
私は有無を言わせぬ勢いで電話を切り、それから前回の電話の録音を確認した。電話は1時間以上にもなる長いものだった。彼女が受けた要求は私にかかってきた電話と同様、通常有料で行っているサービス(なかなかいい値段がする)を無料にしろというものだった。
理由は入会時に説明がなかった、今まで対応してきた電話オペレータの態度が悪かった等、難癖ともとれる内容だ。当然断っていいものなのだが、新人オペレータの彼女は終始怯えて謝り通しだった。