100業種・5000件以上のクレームを解決し、NHK「ニュースウオッチ9」、日本テレビ系「news every.」などでも引っ張りだこの株式会社エンゴシステム代表取締役の援川聡氏。近年増え続けるモンスタークレーマーの「終わりなき要求」を断ち切る技術を余すところなく公開した新刊『対面・電話・メールまで クレーム対応「完全撃退」マニュアル』に需要が殺到し、発売即、重版が決まった。
本記事では、理不尽な要求を繰り返すクレーマーを撃退する話術の中から、著者が「K言葉」と名付けるフレーズを、事例とともに特別掲載する。(構成:今野良介)

ネットモンスターには「K言葉」で対抗する

執拗に理不尽な要求を繰り返すクレーマーが業界を越えて増え続け、担当者を悩ませています。そうしたクレーマーに対しては、「ギブアップ」するのが得策です。

ギブアップと言っても、相手の言いなりになるわけではありません。むしろ逆です。「即答できない」ことを繰り返し伝え、攻勢をかわすのです。つまり、相手の土俵に上がらないということです。

その「ギブアップトーク」として、覚えておくと便利なフレーズが「K言葉」です。

K言葉とは、「困りましたね」「苦しいです」「怖いです」というフレーズです。クレーマーの理不尽な要求に対して、回答するのではなく、「私ではどうしようもない」とお手上げの状態を演出するのです。

最近、「ネットに流すぞ!」というクレーマーが増えています。ひと昔前は「マスコミに言うぞ!」「ビラをまくぞ!」がクレーマーの常套句でしたが、今は、このフレーズのほうが脅威です。

とりわけSNSは、企業や店舗にとって、自社商品の広告宣伝に欠かせないツールになりました。ホームページやブログのほか、ツイッターやLINE、フェイスブック、さらにインスタグラムと、顧客との接点がどんどん増えています。しかし、SNSは、ビジネスチャンスを広げると同時に、クレームの温床にもなっています。

相手から「ネットで……SNSで……」と脅し文句を浴びせられれば、つい「やめてください!」と口走ってしまうかもしれません。しかし、これは禁句です。その時点で、クレーマーと担当者のパワーバランスが完全に崩れてしまうからです。

「ネットに流すぞ」「SNSで拡散するぞ」「ツイッターに投稿するぞ」などと言われても、「困りましたね。でも、私どもがとやかく言える立場ではありませんから……」と、K言葉で相手の言葉を引き取ればいいのです。

「半殺しだよ」→「怖いです」<br />「SNSで拡散するぞ」→「困りましたね」<br />究極のクレーム対応“K言葉”の活用術悪質クレーマーの話術に乗せられない方法。

1つの事例を紹介します。

-------食品メーカーの事例-------

食品メーカーの営業担当者が、クレーマーの自宅を訪問したときのこと。

「これ、異物混入事件だろ。なめとんのか!」

中年男性は開口一番、声を張り上げた。身なりはごく普通で、車庫にある車もごく普通の車種である。いわゆる「ブラッククレーマー」ではないようだった。

この1週間前、男性は、食品メーカーに「ヨーグルトにゴミが入っていた」と電話をかけてきていた。応対した窓口のオペレーターは、いつもの手順でお詫びと事実確認をした。とくに失言があったわけではないが、途中から男性はしだいに興奮し始め、最後は一方的に電話を切ってしまった。

当時、ほかの食品メーカーでも異物混入が発覚し、マスコミでも大々的に取り上げられていた。男性は少なからず、その影響を受けているようだった。男性は、担当者を玄関口に立たせたまま、文句を言い続けた。

「オレが電話をしたのは、いつのことだ? 今日か? 昨日か? 違うだろ! もう1週間も経っているんだぞ! どうして、すぐに来なかったんだ!」

担当者が釈明する。

「お客様が電話をお切りになったあと、まずはお電話をお待ちしたほうがいいと思いまして」

「じゃあ、いつ来るつもりだったんだ? 異物混入だぞ。もし、体調が悪くなったらどうするんだ!」

「申し訳ありません。まずはアポイントを取ってから、おうかがいしようと思いまして。それで昨日『今日の午後4時に来るように』とのご指示をいただきましたので、こうして参上いたしました」

担当者は口ごもりながらも、事情を説明しようとするが、男性の怒りはますます激しくなった。

「お客の自宅に来るんだから、その直前に電話をしろよ。待ち伏せみたいな真似をするな。明日、出直してこい!」と怒鳴った。

とうとう担当者は黙り込んでしまった。男性はさらに追い打ちをかけた。

「ネットに流したほうが、オタクみたいな会社はまともに対応するんだろうな。会社の実名入りで書いてやろうか?」

------(事例中断)-------

男性は、必殺フレーズとして「ネットに流す」を繰り出したのです。

担当者にしてみれば、胃が痛くなるほどのストレスを感じるはずですが、ここで脅し文句にひるんではいけません。

「そんなことはやめてください」と懇願すると、「それなら、どうしてくれるんだ?」と、要求をエスカレートさせかねません。

この事例では、ここで私(筆者)に連絡が入ってきました。

------(事例再開)-------

営業所の担当者から、私の携帯電話に連絡が入った。「いま、お時間いいですか? ちょっとご相談がありまして」と沈んだ声が聞こえてくる。