近年、「人生の最期」を、あらかじめ自分で決めて準備する「終活」が普及しているが、まさにこれから死のうというときに、本人の意思がちゃんと尊重される仕組みはまだ確立されていないのが実情だ。折しも、11月30日は「人生会議の日」。自らが望む人生最終段階の医療やケアについて、家族や信頼できる周囲の人と話し合ってみてはどうだろうか。(医療ジャーナリスト 木原洋美)
「蘇生しないで」
懇願する家族、葛藤する隊員
「救急車お願いします。おじいちゃんが呼吸をしていません。心臓も動いていないみたいです」
深夜、119番通報を受け、救急隊員たちはサイレンを鳴らして急行した。現場到着までに要した時間はわずか7分。1分1秒の猶予もない、患者を死の淵から救い出さなければ。外灯がついた玄関の前で、家族が待ち構えていた。すぐに患者のもとへ案内してくれるものと思ったのだが…。
「あの、すみません。心肺蘇生とかしないでいただけますか。何もしないで搬送してください」
家族は、申し訳なさそうに切り出した。
「あー、そういうわけにはいきません。119番通報を受けた以上、我々は、全力で救命措置をしないわけにはいかないんです。患者さん、こちらですか」