「地球の歩き方」をつくるのはどんな人?

石谷 人によりますけど、年に半分くらいは海外に行っている人もいますね。

ちきりん すごいですね。そういう生活をずっと何十年もやっていらっしゃる方もあるんでしょうか? というか、貴誌のライターの方にとってはそれが普通なんですか? それともごく一部の例外的な方が、ということなんですか?

石谷 そういうことをやっている人が、いまでも数十人はいるということです。昔からやっているライターは年に3回くらいしか海外に行かなくなっている人もいますが、そのプロダクションにいる若い人は毎月、海外に出たり戻ったりを繰り返していますよ。

ちきりん 一応、ご担当の国が決っているわけですよね?

石谷 はい。

ちきりん すると、インドならインド、ペルーならペルーと同じところに毎年訪れて取材をされるわけですね。その国や地域に相当に惚れ込んでいないとできない仕事ですね。

石谷 そうですね。

ちきりん そういえば「トラベルライター講座」ってありますよね。ああいうのって、旅行好きでライターになりたい人が行くのかな。でも、旅行が好きだったらトラベルライターにはならないほうがいいんじゃないかとも思います。 取材だと純粋な旅行はできないですよね。リゾート地で重いバックパックをかついで、皆がのんびりしているところで細かくメモを取って、しかも、同じところに何回も行って……。とても地道な作業ですよね。

石谷 そうですね。毎年、同じところに必ずのように行きますからね。

ちきりん 現地で、商品の値段が変わっていないか、店がつぶれていないかを確認して回るんですよね。そういうライターの方にとっての楽しみは、その国や地域が毎年どう変わっていくかをビビッドに感じられるということでしょうか。

石谷 ええ。それとともに、やはり「そのことを伝えたい」って気持ちがすごい強くありますね。

ちきりん ああなるほど。自分が大好きなものをたくさんの人に知ってもらいたいという気持ちですね。それはよくわかります。ところで、社員の採用についてですけど、ダイヤモンド・ビッグ社さんには、「『地球の歩き方』の編集がやりたい!」っていう人が応募してくるのですか?

石谷 いまはそういう人が多いですね。以前は「地球の歩き方」の仕事では採用していなくて。会社の事業が「人材採用」でしたから。

ちきりん いつ頃から「地球の歩き方」をメインとする採用を始められたんですか?

石谷 2000年を過ぎてからですね。

ちきりん ライターさんの書いたものをまとめる編集体制のほうは? 誌面に何を載せるかとか、大きな方針などは石谷さんなど、上の立場の人が判断されるんですか?

石谷 編集部の社員は基本的にプロデューサーで、編集部の社員と担当するプロダクションの編集担当で、方針などを決めてやっていきます。プロダクションのメンバーにまかせきりだと、本がどんどんどんどん厚くなっていくんで(笑)。

ちきりん 一時期よりページ数が少なくなったような気もするのは気のせいかしら。都市別に分冊になったものが増えたからかもしれませんね。

石谷 じつは薄くはなっていないんですよね。『シカゴ編』にしても500ページくらいあるので。「削ろう!」とは言うけれど、削るところがない……(笑)。ただ、カラーが急激に増えたのは昭文社さんが「個人旅行」をオールカラーで出してきた90年代の後半からですが、そのあたりで「地球の歩き方」の紙質も、薄くてもよいものになりました。

ちきりん 編集部の方は何人くらい、いらっしゃるんですか?

石谷 編集部自体のメンバーは30人ちょっとです。

ちきりん 30人で総計200タイトルほどをやってらっしゃるってことですね。では、去年1年間で「地球の歩き方」をつくるために関わった人の数は、数百人とか……。

石谷 いや、1000人単位になりますよ。

ちきりん すごい!

石谷 協力者、現地ライター、現地カメラマンも含めての話ですが……。ただ、ライターは、基本的には日本から現地へ行きます。現地で、「この店うまいよ」って評判でも、現地の人は好みの味でも日本人は好まないっていうケースもよくあるので。

ちきりん 競合する本もそのくらいの人数をかけているんですか?

石谷 人数はそんなには違わないと思いますね。

ちきりん ガイドブック作るって、大変な仕事なんですね。そうすると、貴誌の成功要因は人数とか予算じゃなくて、書いている人、編集している人の質の違いということになりますね。貴誌は旅人が書いている、他社は編集者で旅行好きな人が、という違いでしょうか。

石谷 そうですね。そうなると、たぶん新刊とか、まったく新しい地域を出す際には、つくりが違ってくると思いますね。自分が歩いてみて、「あ、ここは書いておいたほうがいい」といった“旅のツボ”みたいなことが、普通の旅行の感覚だとわからなかったり、バスの路線図や時刻表があっても、本当にそのとおりには行けなかったりすることがしょっちゅうなので。そういう部分って旅人は感覚的にわかるんですよ。その差が出てきますね。