「2年で改訂」が採否の分かれ目

ちきりん いちばん最近、新たに出した国ってどこですか?

石谷 いちばん新しいタイトルは2年前の『バングラデシュ編』です。

ちきりん たとえば、「バングラデシュを出そうよ」って決ったときには、どうやってそのプロジェクトを進めていくんですか?

石谷 まあ、市場調査や現地調査、いろいろと調べますが、まず、「本当に売れるの? 買ってくれる人がいるの?」という部分は大きいですね。バングラデシュの場合は、数年前から担当のプロデューサーが「出したい、出したい」って企画書を上げていたんですが、「ダメ、ダメ」って蹴っ飛ばしていたんです(笑)。

ちきりん 出しても売れないからですか?

石谷 まあ、そうですね。もともとバングラデシュって観光資源はあるけれどもインフラがすごく悪くて、しょっちゅうサイクロンでやられてしまう。本として出すには、そういうむずかしさもあったんです。

ちきりん ああいう国って大災害で道とかバス路線とかがなくなると、長い間、復旧しないですもんね。すると情報が役に立たなくなってしまうわけですね。ところで、実際にどれくらい売れると判断できると、GOが出るんですか?

石谷 基本は「2年ごとに改訂できるかどうか」ですね。採算ラインはページ数とか取材費によって違いますが、改訂できないと古い本がずっと在庫として残ってしまう。あるいは赤字のままで改訂しないといけない。その見極めが2年くらいなんです。

ちきりん なるほど。

石谷 だいたいメインのタイトルの本については、年1回改訂して、それ以外は1年半から2年に1回。2年に1回改訂できないと判断したら、「いまは出さない」ということです。でも、バングラデシュの場合は、出すと決める数年前から企業の進出がたくさんあって、ビジネスで行く人が増えた。その需要も含めて判断したわけです。

ちきりん そうなんだ。『バングラデシュ編』を出すことが決まると、次は何が行なわれるんでしょう。まず、提案したプロデューサーの方が現地を回ってくるとか?

石谷 企画の段階で見てきたりはしていますから、GOサインが出た時点で、ある程度は仮台割(ページ構成)のようなものはできます。そのあとに、もう一回調査して2回目の仮台割をつくって、それで取材に行って、いう感じですね。

ちきりん 新しい国のものを出すのは、大きな喜びですよね。

石谷 そうですね。みんな新しい国・地域を出したがりますね(笑)。「私が初めてつくった!」って言えますから。

「地球の歩き方」はなぜ“圧倒的”なブランドに?

究極の個人旅行=出張ビジネスマンもターゲットに

ちきりん バングラデシュの件でおもしろいなと思ったのは、バックパッカーが行くかどうかではなくて、企業がその国にどれくらい進出してきたかという判断があって、発行が決るということ。そういうことが大事なんですね?

石谷 いまはそうですね。バックパッカー自体が少なくなっているので。

ちきりん 海外旅行をする人は増えているけれど、バックパッカーという言葉はもう死語なのかな(笑)。

石谷 死語ではないけど減ってます。よくわかるのが、東南アジアではタイとかインドネジアの空港に降りたときの荷物。20年くらい前だとバックパックがけっこうぐるぐる回ってきたけど、いまは、ほぼ見ないですよね。

ちきりん そうですよね。バックパックがきたな、と思うと外人さんの荷物。ヨーロッパの人とか多いですね。成田でもバックパックは見ないですね。そうすると、バングラデシュなんて誰が行くの? と思うけど、日本企業がどれくらい進出するかということが大きな判断材料になるわけですね。

石谷 バングラデシュの場合はそうでした。日本企業がこれからいっぱい進出するので、日本人がたくさん行くだろうな、と。ところで、「地球の歩き方」は個人旅行用につくったけど、ビジネスマンって究極の個人旅行者なんですよ。

ちきりん たしかにそうですね!