石谷 パッケージ旅行には参加せず、企業で飛行機とかホテルだけ手配して、現地で商談してくる。じつは『シカゴ編』が成り立っているのもビジネスユースが多いからです。シカゴへ観光で1週間行く人はまずいない。観光用に考えたら、あの本は半分のページ数で十分なんです。
ちきりん それはおもしろい。全く気がついていませんでした。「地球の歩き方」のアメリカ版とかヨーロッパ版って、ビジネスマンが結構買っているっていうことなんですね?
石谷 買っていただいてますね。
ちきりん おもしろいですね。じゃあ『上海編』なんて、最初の頃はビジネスマンばかりだったのかな?
石谷 そうでしょうね。
ちきりん 私も外資系企業に勤めていた頃、出張で年に数回はシカゴに行っていたんですけど、たしかに観光でシカゴにわざわざ行くかって言われると……ないですね。ビジネスで行くと、美術館とか建築物も素晴らしいので、いったん行けば、それなりに見どころはありますけど。
石谷 シカゴだと日本のビジネスマン向けに接待で使える店を載せるとか、ちょっと高級そうなレストランを紹介するとか、ビジネスが1日空いたらぐるっと回れるような見どころを案内するとか、そんな観点から載せています。
ちきりん もしかするとそれも他社のガイドブックと違うところですか? ほかのガイドブックにはビジネスマン目線はあまりなくて、旅行する人だけを対象としている感じもしますが……。
石谷 そうかもしれませんね。
ちきりん なるほど。そういうマーケットが大きいこと、そのマーケットを取り込んでいることにぜんぜん気づいていませんでした。
ガイドブック独特の「改訂すること」のむずかしさ
ちきりん 話は変わりますけど、シリーズ化する一方で、タイトルとしてなくなった国ってあるんですか?
石谷 古いシリーズを再編成するケースはありますね。前に「フロンティアシリーズ」っていうものがあったんですけど、そこで出していた『ベトナム編』を本体のシリーズに入れたり、ですね。
ちきりん なくなってしまうのは、「売れ行きが悪い」から?
石谷 改訂できずになくなれば、そういうことですね。でも、改訂できるかどうかは、その国・地域のその時期の取材のむずかしさなども関係してきます。政情が変わってきますので。一時期の『イスラエル編』がなかなか改訂できなかったり、『パキスタン編』も編集者はやりたいと言っているけれども、さすがに「ちょっと取材に行ってこい」とも言えないので……。
ちきりん 逆に言うと、これまで1回も取材絡みでの人身事故や誘拐など、深刻な事故は起こっていないということになりますか?
石谷 ええ。ライターはもちろん、みんなが本当にもう旅慣れしているので、危険を感じるところには行かないし、行かせない。
ちきりん 『世界を歩いて考えよう』(大和書房刊)にも書きましたが、私も旅先ではかなり慎重です。細かいトラブルにはしょっちゅう遭ってますが(笑)、海外で危険を甘く見てたら命が危ないですもんね。プロとして自分で管理できる人に頼むことは大事なことですね。
石谷 はい。まあ、9.11とかSARSとか、いままでいろんなことがありましたよね。でも、基本的に最新情報を目指しているので、そういう時期でも絶対に改訂はしていた。他社が改訂できないときも、「改訂し続けた」という自負はあります。ですから、「地球の歩き方」には、ずっと年号を入れています。「2012−2013年版」とか。他社も以前は入れていたんですが、9.11あたりからはずしてしまいました。