――筆者のウォルター・ラッセル・ミードは「グローバルビュー」欄担当コラムニスト
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【ダボス(スイス)】世界経済フォーラム(WEF)の年次総会は、過去50年にわたって企業幹部や政治家、評論家、学者、活動家、「社会起業家」、著名人らを、スイスアルプス山中のこの小さな町に呼び寄せてきた。ダボス会議はこの町に暮らす住民にとって、良い面と悪い面がある。警護目的のバリアと交通量の多さは、狭い街路を悪夢に変える。しかし、立地の良い1ベッドルームのアパートの宿泊費は1泊当たり5000ドル(約55万円)にもなるため、多くのダボス住民は、この狂乱状態の町から出ることで、かなりの利益を手にすることができる。リゾート地として知られるこの町のホテルも恩恵に浴する。企業や政府は、イベントに使う宴会場や大広間を競い合って予約するため、地元のホテル業者は、WEF総会が開かれるようになる前の遠い昔にスキーシーズン全体を通じて得られた以上の契約を、この1週間で達成できる。
この尊大な人々の集まりに、幾分バカげた雰囲気が伴うことは避けがたい。牧歌的な生活を謳歌するために女羊飼いの扮装をしたマリー・アントワネットと彼女の友人たちでさえ、しばしばプライベートジェットを使ってこの隔絶されたスイスのスキーリゾートにやってくる100人以上の億万長者たちには太刀打ちできない。彼らは、貧困や気候変動の危機などの問題について、4日間にわたって仰々しい論議を展開する。今年は、参加者登録を担当する1人の熱心な若者が筆者に、会議の二酸化炭素排出量を削減するため、紙に印刷された町の地図は配付されないと語った。こうした環境保護活動の進展の兆候を受けて、近くのアルプス氷河が一斉に漏らす安堵の声が聞こえてきそうではないか。
しかし、ダボアジー(ダボス会議の常連)にとって、今年のWEFは困難な時期に開かれることになる。世界中の指導者らは現在、ポピュリズム、ナショナリズム、保護主義に特徴付けられた新たな時代と向き合わざるを得なくなっている。
ダボス会議の常連たちにとって、ポピュリズムの台頭は極めて大きな問題だ。供給網の分断が始まるなか、対立するブロックごとにますます分離しつつある世界は、グローバル・ガバナンス、「第3の道」の資本主義改革や、その他の多くの希望やプロジェクトに適した環境ではない。