安定したイメージの薬剤師。難関の国家試験を突破すれば、引く手あまたで、年収も申し分ない。ところが2016年度の診療報酬改定から、独立を目指す薬剤師が増えているという。(清談社 村田孔明)
大手調剤薬局は2桁減益も
薬剤師数は30万人突破
「大手薬局に就職して一生安泰、という時代は終わりました」
薬剤師の独立を支援するサービス「独立薬剤師.com」を運営するMACアドバイザリーの代表・花木聡氏は薬剤師を取り巻く現状をこう語る。
「大手調剤薬局の2018年度決算では、アインHD、日本調剤、クオールなど大手の純利益は軒並み2桁減少しています。新規出店数も減少傾向で、右肩上がりで伸びてきた薬局数は6万カ所を境にして、これからマイナスに転じると予測されています」(花木氏、以下同)
医師の処方箋に基づいて医薬品を調剤する「調剤薬局(保険薬局)」の数は、厚生労働省の発表では5万9613カ所(18年度末時点)。一概に比較はできないが、コンビニの5万5743店(18年12月末時点)よりも多い。
同様に薬剤師数も増え、30年間でほぼ倍となり、16年には30万人を突破した。さらに、毎年1万人近くが新たに薬剤師国家試験に合格し、その約4割が調剤薬局に就職する。
「現在、調剤薬局は6万カ所近くまで増えて飽和状態にもかかわらず、それでもなお薬学部が新設されています。今後政策によって薬局減少時代が到来するのはほぼ確実視されており、このままでは薬剤師が供給過多になるのは目に見えているため、若手薬剤師たちは危機感を覚えています」
ここ数年で「独立薬剤師.com」の登録者数は急増。現在は1000人を超え、実際に年30~50人がM&Aで独立しているという。
「薬剤師の独立方法は、新規開局とM&Aの2つがあります。新規開局は、いきなり数千万円の借金を抱えますし、2~3年間は赤字を覚悟しなければならない。一方でM&Aは、現在運営している店舗の継続で独立後の事業計画がほぼ見えているため、私たちはM&Aによる独立のみを紹介しています」
M&Aが活発になっている背景には、売り手にも一因がある。これまではドル箱だったはずの門前薬局(大病院周辺の薬局)、マンツーマン薬局(隣の病院からの処方箋だけを頼りにする薬局)を売りに出す大手調剤薬局が増えているからだという。