当然ながら、“要請”というのは行政のアクションとしては非常に弱いものです。罰則や補償の規定がない“指示”も拘束力が弱いと言わざるを得ません。やはり、緊急事態宣言を出すような非常事態に向けては、法的拘束力が強い罰則や補償付きの“命令”を出せるようにすべきなのに、その規定がまったくないというのも、緊急事態対応を意図する法律としてはダメと言わざるを得ないのではないでしょうか。

今の特別措置法では
東京の“ロックダウン”も無理

 ちなみに、今は東京都で感染者数が急増しているので、ニューヨークやロンドンなどと同じように東京でも“ロックダウン”(都市封鎖)が発令されるのではないかと騒がれています。しかしこの法律を読む限り、そんなことは無理です。

 第45条を読めば明らかなように、住民の外出規制について都知事が取れるアクションは“要請”だけです。興行の中止と違って、“指示”もできません。かつ、武漢で起きたような交通機関の遮断については、法律上何も規定がありませんから、それをやるのは不可能です。

 つまりこの法律は、欧米のような強制力を伴ったものでは全くなく、何事もあくまで“要請”がベースであり、日本人の協調性や規律の正しさに大きく依存した出来の悪い法律なのです。

 もちろん、この法律はもともと民主党政権時代につくられたものであり、今回の改正でも時間がない上に、何かというと人権保護を叫ぶ野党がうるさいからといった事情はあったのでしょう。それにしても、緊急事態への対応の法律としてはちょっとお粗末、使い物にならないと言わざるを得ません。

 それでも、この法律しかないのが現実ですから、私たち国民の一人ひとりがしっかりと協調性を発揮して、感染者数の増加を抑えるしかありません。政治や政府はダメだけど国民はしっかりしているというのは、諸外国にない日本のお家芸なので、それを発揮するしかないのです。

(慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 教授 岸 博幸)