暴力を振るう父親
家庭は恐怖しかなかった

「私にも、楽しいと思える人生が送れるチャンスがあるのかもしれないと思えた」

 そう語るのはマキさん(仮名)。28歳のときに結婚し、今年で7年目になる。

 マキさんの父は子どもや妻に暴力を振るう人だった。気に入らないことがあれば殴る、口汚くののしる。マキさんは2つ違いの弟と2人姉弟だったが、物心ついたころから弟は殴られていたし、冬の寒い日に裸で2人揃(そろ)って家の外に締め出されたこともあるという。

「母も助けてはくれませんでした。父の陰に隠れて、父の言葉にうなずいているだけ。そうしていれば殴られることもなかったんだろうなあ、と今なら分かります。私も弟も小さいころはなぜ殴られるのか、怒られるのかも分からず泣いたりわめいたりしていたんですが、年を重ねるにつれて黙って言うことを聞いていればつらい目に遭わないと気づきました」

 それからは父の言うことはなんでも聞いた。そうすれば、殴られない。大人になってからも父の言うことは絶対だった。「何かがおかしい」「逃げたい」と思いながらも逆らうことができない。親から理不尽に与えられる暴力というのは、想像する以上に恐怖がある。一歩踏み出した先に地雷があり、その瞬間に自分の体が吹き飛ぶかもしれない。そんなふうに考えて過ごす毎日。

 就職も父親の言うとおりにし、実家から出ることも許されなかった。

「もちろん、強引に出ていこうとしたこともありました。そうしたら、『俺にはヤクザの知り合いがいるから勝手に出ていってもすぐに見つける』って(笑)。今、考えたらうそだろうなあ、と分かるんですけど、当時は怖くて仕方がなかった。

 父が絶対的な存在で、逆らえばそれこそ殺されてしまうかもしれないぐらいに思っていました」

 マキさんにとって、家族はいま自分が見ているものでしかなく、「家族」というものがとても「素晴らしい」ものには思えなかったし、よくいわれる「家族の絆」はただの恐怖でしかない。

 そんなときに出会ったのが夫のサトシさん(仮名)だった。