*連載【第1回】はこちら
組織が誕生したその瞬間から人類を悩ませてきた不正問題は、新しいステージに入った。事業のグローバル化や大規模化に伴い、より巧妙で大胆な不正行為が、いまこの瞬間も組織を蝕んでいるおそれがある。
進化する脅威に立ち向かうためには、革新的なテクノロジーを活用したダイナミックなアプローチが欠かせない。連載第2回となる今回は、AI監査による不正検知と防止の最前線を追う。
進化する
デジタル監査ソリューション
編集部(以下青文字):連載第1回にて、貴社の髙波博之理事長は「AI監査による不正検知は、言わば人間ドックと同じ。重大な病気が進行する前に発見して手を打つべき」だと述べています。具体的には、企業でどのような病気、つまり不正が起こりやすいのでしょうか。
坂寄:KPMGの調査では、直近3年の間に3社に1社の割合で不正が発覚していて、これは2016年の前回調査に比べて増加傾向にあります。報道などでは損害額が大きい海外子会社の事案がどうしても目立ちますが、国内子会社でも同様に、多くの不正が発覚しています。
一口に不正と言っても、内容はさまざまです。国内外ともに最も多いのが「横領」ですが、近年は「情報漏洩」も増加しています。また国内では、「製品・性能の偽装」も目立つようになっています。そうした中でも我々監査法人に期待されているのが、粉飾決算などの「会計不正」への対応です。
細井:他の多くの不正と同様、会計不正も、親会社本体と比べて内部統制が脆弱になりがちな子会社で、数多く発生します。
たとえば海外子会社では、長期にわたって一人の役員や従業員が特定の業務を行うことにより権限が集中するなど、属人的な業務運営になりがちです。本社の目が届かず、日本から派遣された現地トップも詳細がわからずに、実質的には現地人材に任せ切りというケースも珍しくありません。
そのため、ひとたび不正が発生すると発見までに時間を要し、損害が拡大する傾向があります。たとえ事業規模が小さくても、ノンコア事業でも、多額の損失が発生することはありますし、金額が大きくなると訂正・公表という事態になるため、レピュテーション毀損のダメージ、資本市場への影響等は避けられません。
最新のデジタル監査は、そうした不正の検知にどのような威力を発揮しますか。
細井:不正というのは、発覚した後に振り返ると、何かしらの兆候があるものです。裏を返すと、その兆候を見逃さなければ、いち早く手を打ち、事態悪化を回避できます。ただし、兆候を見逃さないといっても人の手では限界があり、すべての会計データや取引をチェックすることは不可能です。
そこで大きな効果を発揮すると期待されているのが、デジタル監査です。デジタルテクノロジーを用いて客観的にデータ上の兆候をとらえ、それが何を示しているかを、私たち会計士が専門的な知見と蓄積した経験に基づいて判断するものです。
宇宿:我々のデジタル監査における不正検知のためのソリューションは、大きく3つの階層に分かれています。
1つ目は、「マクロレベルの不正リスク検知」モデルです。不正があった財務諸表の特徴を教師データとして機械学習し、それと近い特徴を持つ財務諸表は、不正が発生しているリスクが高いと評価します。その教師データには、過去10年以上の財務・非財務データと不正の有無、さらに不正の発見と関連が強いと考えられる変数を用いています。 従来の不正リスク検知モデルでは参照可能な変数が限られていましたが、機械学習を用いることで膨大な数の変数を使って検知性能を上げることに成功しました。大局的に不正リスクを捕捉するという観点からは、実用に足る十分な精度が得られるレベルに達しています。