もとより、「昭和スタイル」は通用しにくくなっていました。組織の中でダイバーシティが進んできた上に、ビジネスの勝ちパターンが見えなくなったからです。新しいコミュニケーションスタイルによって、上司・部下間での信頼感を醸成しなければ、営業成績も上がらないし、イノベーションも起きないでしょう。そのことを、ウィズコロナという新時代であるからこそ、より強く意識するべきだと思います。

カタチだけの1on1では
うまくいかない

※『ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』(ダイヤモンド社刊)が広く読者に受け入れられた理由について、「読者の中心層であるマネジャーたちが〝乾いていたから〟だ」と本間氏は言う。つまり、必要とされていたものだった、ということだ。コミュニケーションの難易度が上がり、ハラスメントという言葉に怯えるマネジャー層にとって、「対話」の価値をベースとする1on1は、深く刺さったのだろう。

  1on1がさまざまな企業で行われるようになり、いろいろな質問を受けることがあります。1on1という上司と部下間でのコミュニケーションの方法は、私が発明したものではありませんし、ヤフーの占有物でもない。ただ、その導入を社内で積極的に進めてきたことは事実ですし、研修や評価など、1on1を下支えする数々の仕組みも作ることで、制度として定着したことも確かです。その立場から1on1の状況を見ると、こちらが参考にしたくなるような良い例も多い反面、やや表層的に捉えられてしまったかな、という違和感もあります。あるいは、私たちの責任もあるかもしれません。

 たとえば、「1on1でティーチングとコーチングのバランスはどれくらいがよいのか?」という問いをよく聞きますが、形から入りすぎていて、目的を見失っているなと感じざるを得ません。ティーチングやフィードバックは、タイミングが重要なので、定期的な1on1を待つのではなく、部下の行動の直後に行うべき。このように、上長と部下のコミュニケーションのあり方を抜本的に変えようとしないで、カタチだけ1on1を入れてもうまくいく確率は低い。
 
   施策を導入するに際しては「なんのために実施するか」を、考える必要があります。1on1についていえば「なんのためのコミュニケーションなのか」を問うことが大事です。カウンセリングやコーチングなど、世の中には多くの本が溢れていますが、そのまま手法を当てはめるだけでは、うまくいかないかもしれない。組織の問題を解決する最適な手法は、1on1ではないかもしれないのです。

 1on1の広がりの中で、トレーニングの方法にも問題があったように思います。人事が招く講師やベンダーは、カウンセリングやコーチングを学んだ人が多く、その結果、1on1のテクニック(傾聴の方法、質問の方法など)にフォーカスしすぎたケースもあるように聞きます。これはベンダーの問題ではなく、企業側の問題です。