自動車業界の「100年に一度の大変革期」に勝ち残るために、人と組織の面から事業をサポートするPhoto: Adobe Stock

事業部人事とは、生産や営業などの事業部門を「元気」にすることを目的として、人事制度・人材開発・組織開発などの諸サービスを事業部門に提供する「人と組織のプロフェッショナル人材」を指す。従来の人事部が、本社人事部として中央集権的に人事制度の構築・運用を担っているのとは対照的に、日々課題が生まれる現場に入り込み、その課題解決を支援することをめざしている。

なぜ今、事業部人事がこれまで以上に求められているのか。中原淳氏(立教大学教授)が導入企業の事業部人事責任者などと対話し、事業部人事の現状と将来の可能性について明らかにする。今回は、トヨタ自動車の先進技術開発カンパニーで人事室長を務める原田帯刀氏にお話をうかがった(対談は前後編の2回でお届けする。今回は前編)。

トヨタはなぜ、
カンパニー制を導入したのか

中原 原田さん、本日はよろしくお願いします。まずはトヨタ自動車の中で、原田さんがどんなお立場で仕事をされているのかをお聞かせいただけますか。

原田 はい。当社の先進技術開発カンパニーで人事室の室長をしています。当社では2016年にカンパニー制に移行しまして、組織の体制が大きくヘッドオフィスとビジネスユニットに分かれ、ビジネスユニットは製品軸ごとに11のカンパニーに分かれています。先進技術開発カンパニーはその1つで、先端・先進技術の開発やモビリティの企画開発などを行っています。

 当カンパニーの建て付けは、まずカンパニー長であるプレジデントがいて、その下にカンパニー内のリソース(人、お金、技術など)を統括する先進技術統括部が置かれています。人事室もその中に入っています。カンパニーに所属する4000人弱の従業員を、人事室の約40人でサポートしているという状況ですね。

中原 ありがとうございます。最初に全社的なお話からうかがいたいのですが、カンパニー制導入の背景には、御社のビジネスにどのような変化があったのですか。

原田 当社は創業以来、自動車の開発・生産・販売というほぼ単一事業で拡大基調を続け、2013年にはグループの生産台数が1000万台を超える規模になりました。しかし、その頃から「CASE」(Connected:コネクティッド、Autonomous:自動化、Shared:シェアリング、Electric:電動化)と呼ばれる新しい領域で変革が進みはじめたのです。

 そうした中で、クルマを所有することを前提としたビジネスが将来的には頭打ちになるのではないかとか、Googleやテスラのような新しい競合にどう対応していくのか、などが全社的な課題となっていきました。2018年1月に豊田章男社長が「トヨタをモビリティカンパニーへと変革する」と対外的に宣言したように、モビリティサービスまでを含めた企業として大きくモデルチェンジしていこうという方針が、カンパニー制導入の背景にありました。