痛みを診るすなわち「人を診る」
麻酔医から慢性痛専門医へ

 そもそも医師を志したのは「人を診る仕事」をしたいから。しかし大阪大学医学部を卒業して最初に選択した麻酔科医は、患者との接触が限られており、物足りなさを感じていた。その時出合ったのが慢性痛医療だった。

「慢性痛治療においてようやく『人を診る』ことの重要性が次第に明らかになってきた時代でした。単に器質的疾患を診るだけに留まらない奥深さに惹きつけられた。痛みを診ることはすなわち「人を診る」こと。

 実際従事してみると、その世界は私の好奇心を裏切りませんでした。痛み自体は昔から、ケガや疾患に伴うごく一般的な症状の1つとしか捉えられてきませんでしたが、それだけに未知の部分が多くあります。ちょうどその頃、神経科学の視点からみた痛みについてもさまざまなことが解明され始め、慢性痛治療は学問的にも今後の発展が楽しみな非常に研究しがいのある分野になっていました」

 以来30余年、柴田医師は慢性痛医療について常に考え、行動しつづけてきた。1996年には2人の盟友との運命的な出会いも果たした。

「慢性痛治療の研究を始めたものの、当時日本国内で議論されていたことと、私が考えていたことでは差がありました。そもそも痛みとは何かの定義にも違和感を持っていたので。

 そんな中、1996年にアメリカで開催された国際疼痛学会に参加させてもらい、世界の疼痛治療が進んでいることに感動しました。ワシントン州立ワシントン大学のペインセンターでは1960年の設立当初から、『痛みには、生物的・心理的・社会的な因子があり、それらが複雑に絡み合っている』という意識のもとで診断・治療が行われていたのですが、なんとそこに北原雅樹先生(現・横浜市立大学教授)が留学していました。会って、話してみて、非常に共感しました。

 さらに学会の抄録を読むと運動と痛みの関係について面白い研究をしている日本人がいました。興味を惹かれてそのポスターの前に行くと、立っていたのが牛田享宏先生(現・愛知医科大学教授)です。

 意気投合し、一緒に想いを共有する組織を作ろうということになり、今に至っています。行動力のある牛田先生が積極的に進めて、私と北原先生がサポートした」