無派閥・裸一貫で首相に
中国人が菅首相に感じるシンパシー
9月17日に成立した菅政権に、中国は注目している。首相就任後、中国メディアは次々と報道した。菅首相が秋田の農村出身であること、裸一貫から出発したこと、無派閥で首相になったことが紹介されていた。
上海外国語大学日本研究センターの廉徳瑰主任は、菅首相当選について中国メディアの取材に対し、「無派閥の菅は各方面が受け入れられる人物だからだ。菅が当選したのは、自民党の最大派閥である細田派と麻生派の支持を得、二階派と協力したからだ」と分析した。
中国メディアは何の背景もなかった菅首相が、最高指導者の地位に上り詰めた事実を必ずと言っていいほど紹介している。中国人、特に農村出身の人はその手のストーリーが好きだからだ。
筆者が2001年に留学していたとき、周りの中国人学生はよく勉強していた。四川省出身のある学生は、「私の家は裕福ではないので、一生懸命勉強して運命を変えなければなりません」とよく言っていた。学生時代にきちんと勉強していれば、企業、国有企業、または公務員の職を得るチャンスが出てくる。そうでなければ、チャンスをつかむことはできず、貧乏に逆戻りだ。
「努力すれば運命を変えられる」ことを信じる中国人にとっては、首相の経歴は絵に描いたようなサクセスストーリーだ。
今日の中国は、競争が激しく、有名大学を卒業しても高収入で安定した仕事を約束されてはいない。有名大学以外の大学を卒業した若者が、安定した仕事に就くことはなおさら難しい。親に強力なコネがあったり、大企業の社長の2代目である「富二代」、官僚の2代目である「官二代」であったりすれば将来が約束されているが、そうでない人が大部分で、個人の努力ではどうにもならないこともある。
そういうこともあってか、「私には背景(バック)がない。あるのは影だけだ」という自虐的な冗談がネット上で流行ったこともあった。他者との競争を好まない「仏系」という言葉が出てきたのも、こういう背景がある。菅首相の生い立ちは、出世して良い生活をしたいごく普通の中国人にとって、共感できる部分があると思う。