ワクチン開発、独バイオンテック躍進の軌跡バイオンテックを妻と共同で創業したサヒンCEO(左)とバイオンテックの共同創業者で最高医療責任者を務めるオズレム・トゥレシ氏(右) Photo:Marzena Skubatz for The Wall Street Journal

【マインツ(ドイツ)】1月下旬のある金曜日、ウグル・サヒン博士のもとに悪い知らせがメールで届いた。中国で死者が発生している新型コロナウイルスに関する新たな研究で、これまで考えられていたよりも感染力が強いことが示唆されたという内容だった。この感染はパンデミック(世界的大流行)に発展する可能性があるとサヒン氏は考えた。

 週明けの月曜日、ドイツのバイオ製薬会社バイオンテックの最高経営責任者(CEO)である同氏は取締役会を招集し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)予防ワクチンの開発に着手すると発表した。バイオンテックはそれまで、次世代型がん治療薬の開発を手掛けてきた。サヒン氏はさらに、欧州と米国がロックダウン(都市封鎖)を余儀なくされた場合に備えて、4月までにヒト臨床試験を開始する必要があると付け加えた。

 世界の多くがまだ新型コロナの危険に気付かぬうちに、バイオンテックは急発進していた。サヒン氏は今月、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のインタビューに応じ、同氏が創業したほとんど無名の企業が新型コロナ予防ワクチンの世界的な開発競争で先頭集団に躍り出るまでの一連の出来事を語った。

 サヒン氏や複数の関係者によると、取締役も幹部社員も当初は開発に反対した。多くはスキー休暇に出掛けようとするタイミングだった。だがサヒン氏と妻でチーフメディカルオフィサーのオズレム・トゥレシ氏は頑として譲らなかった。2人はバイオンテックの共同創業者であり筆頭株主だ。

「どうにかして説得しなければならなかった」とサヒン氏は言う。「中国の状況は誇張されていて、われわれには影響しないと考えている人もいた」