『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』が10万部を突破! 本書には東京大学教授の柳川範之氏が「著者の知識が圧倒的」、独立研究者の山口周氏も「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せ、ビジネスマンから大学生まで多くの人がSNSで勉強法を公開するなど、話題になっています。
この連載では、著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら
[質問]
暗記が苦手です
私は国家資格の勉強をしているのですが、暗記物が不得手(覚え方が下手なだけ?)のようで苦しんでいます。
しかも、困ったことに、完全に何も覚えられないというわけでもなく、模試を受けながら「教科書のどのあたりの右ページの下の方に3行でまとめてあった文章だ…」というところまで思い出せます。問題がどういう趣旨で問うてるかまでわかるのに、曖昧な記憶しかないため点数にはならず、あれだけ勉強したのに…と、とても悔しい思いをします。個人的に、完全にお手上げ状態の時と比較してもストレスが高く、モチベーション低下の要因にもなっています。
暗記(勉強)の仕方が悪いんだろうなとは思うんですが、どうしたらいいかわかりません。暗記物は大学ノートに繰り返し書き写したり(もちろんただ写すだけの行為はしていません)、他人に説明したりして覚えようとしています。勉強時間・環境についても過不足ないと思います。
関係あるかどうかはわかりませんが、私はとても短期記憶が弱いようです。他人と会話をしようとするとき、順序立てて理路整然と説明することができません。
また、人に、考えすぎ・細かすぎだと言われることがよくあります。自覚があるので、重要なことを優先順位をつけて思考を組み立てるようにしています(しかし、会話においては、話しているうちに忘れてしまって支離滅裂になってしまうことが多いです)。
主観ですが、語彙が少ない、読解力がないというわけでもないと思います(親の影響で小学生の頃から本を読み、辞書を引く習慣があります)。
受験しようとしている資格について、興味がないわけでもなく、嫌いや苦手という意識もないのですが、それよりも熱中できる趣味を過去に持っていました(今は控えています)。
本当は自分で解決するべきことなのでしょうが、藁にもすがる思いで質問させていただきました。
問題は「記憶力」ではありません
[読書猿の回答]
ご質問をお読みして、ご指摘、ご説明したい点はたくさんあるのですが、取り急ぎ1つだけご説明します。
ヒトの記憶は、棚に荷物を積み込み、思い出すときはそれを取り出すといったものではありません。
むしろ、何らかの反応を生み出す回路を頭の中につくることであり、求める反応が得られない場合(答えを書けないことも含む)は回路を組み替える必要があります。
ヒトは情報をインプットするときにではなく、アウトプットするときにこそ学びます。思い出そうとすることで記憶の再編成が起こり、関連する記憶同士が結びつき、望むべき出力ができるよう回路が組み替えられます。
問題は、こうしてできる回路は、汎用的というよりむしろ(いくらかは汎化するものの基本的には)アウトプットした状況に特化することです。
例えば手本を見て書き写すことは「手本を見て書き写す」ための回路を作ります。
では、どうすればいいか。必要なのは、本番にできるだけ近い形で出力する回路をつくることです。すぐ思いつくのは過去問を解くことですが、覚えるために書き写すことを段階的に近づけていくこともできます。
たとえば『独学大全』で紹介した「筆写」という技法が使えます。
1. 手本を見て書き写す
2. 手本を見た後、手本を隠して思い出しながら書き出す
3. その日の学習の終わりや1章分が終わった時、学んだことを何も見ずにできるだけたくさん書き出す
最初のうちは、手本なしに思い出しながら書き出し手本と比べてみると、あまりに間違いが多くてがっかりするかもしれません。しかし手本と比べるフィードバックを含めて繰り返さないと、正確に思い出して書く回路はできません。間違いのフィードバックは自己理解と正確さへの最上の教材です。
過去問についても、繰り返し同じ問題を解くことは、正確に思い出して書く回路をつくるのに役立ちます。一度やってみて解答を読み、なぜ間違えたのかを理解した後にすぐ、もう一度解いてみます。すぐ解いてみても完璧には解けないことが多いはずです。
以下は蛇足ですが、今回の場合のように.「記憶カの問題」と定義してしまうと解決は見込めません。他の質問への解答でも何度か述べていますが「○○カ」が登場する問題設定は大抵問題をこじらせ解決困難にします。
対策は「○○カが足りない」と言いたくなるのはどんな場面なのか、その場面で、そしてその場面の前後に、起こっているのは具体的には何なのかを調べることから始まります。
長くなったので、これくらいで。