そもそも日本における患者安全は、感染制御のスタートから5~10年ほど遅れて本格化し、その基本スキームは感染制御のトライ&エラーを参考にしながら成長してきた。感染と安全は、業務内容は異なるものの、マネジメントにおける方法論に通じるものがあり、事務機能や居住スペースを同じくしている医療機関も多い。それゆえ長尾氏は機会あるごとに「感染は安全の兄」と発言している。

 ちなみに長尾氏は、患者安全・感染制御・リスクマネジメント担当副病院長を任じられているが、感染制御について特段の専門性を有しているわけではなく、日常的な感染制御活動においては、感染制御部長の八木哲也教授と、感染管理看護師(ICN)の安立なぎさ師長のリーダーシップに委託しており、長尾氏も担当副院長として、その後方支援に徹することを原則としている。

「『感染』の一大事において、いかに『安全』が『感染』を支えて機能するのか、日本の医療現場が育んできた両者の連携・分業体制の真価が、今問われていると感じている」

インシデントレポートのアンテナ機能と
読み取ったヒント

 長尾氏が患者安全において最も重視しているのは「インシデントレポート」だ。患者のリスクのみならず、現場の変化や職員のストレスを察知しうる鋭敏な「アンテナ」となり、さらに、現場のスタッフが匿名で改善提案できる情報提供ツールともなるからだ。

 2020年1月1日~5月31日にかけて、名大病院で報告されたインシデントレポートは4646件。そのうち、「コロナ」「COVID」で検索、抽出されたレポート55件(49事例)について読み解いたことを教えてもらった。

 55件のレポートは主に4パターンに分類できた。

 1.十分な感染防護対策をしないまま診療・ケアが行われた
 2.対策・ルールが不明
 3.対策・ルールが導入されたことにより新たな問題が発生した
 4.陽性・疑い患者の治療中に発生したトラブル