3月に大クラスターが発生し、新型コロナウイルスによる院内感染の象徴となってしまった東京都台東区の永寿総合病院。特集『病院の危機』(全6回)の最終回では、経営破綻、遺族からの医療訴訟などもうわさされたどん底から、大胆な「起死回生策」を打ち出した裏事情に迫る。(ダイヤモンド編集部 野村聖子)
全国の病院を震撼させた大クラスター
「うちを永寿にするわけにはいかない」
東京・上野駅から程近い、永寿総合病院。この下町にある病院の名前を一躍全国区にしたのが、3月に発生した新型コロナウイルスの大クラスター(集団感染)だった。
感染者214人、死者43人という日本最大のクラスターは、全国の病院を震撼させた。
3~4月、政府や自治体はコロナ患者の受け入れ病院の確保に奔走していたが、永寿病院のクラスターの一件で、患者の受け入れをちゅうちょした病院も少なくなかった。
ダイヤモンド編集部が5月上旬に取材した東京都内の急性期病院Aでは、当初中等症以上のコロナ患者を受け入れるよう、都から要請があったという。
しかし、入院患者の8割以上が75歳以上だったことから、ひとたび院内感染が起これば、おびただしい死者が出ることを危惧。そうなれば、永寿病院と同じく、新規の外来・入院の受け入れができなくなり、医業収入への影響も甚大となる。
既存の患者、そして病院経営を守るため、都からの要請との折衷案として、ECMO(体外式膜型人工肺)の適応となるような、最重症患者のみに受け入れを絞ることにした。
「苦渋の決断。うちを永寿にするわけにはいかなかった」(A病院長)。
A病院長がここまでコロナの院内感染を警戒したのは、日頃から永寿病院への評価が高かったからに他ならない。
永寿ほどの病院でもあの規模のクラスターが起こる――。医療現場における感染対策の難しさを熟知しているからこそ、要請されるがままに、どんどん患者を受け入れるわけにはいかなかった。
そして、取材の終わりにA病院長はこう言って目を伏せた。
「これから永寿に待っているのは、医療訴訟だろう」