バイデン氏Photo:Alex Wong/gettyimages

混迷を極めた2020年の米国大統領選挙。過去にない接戦の結果、民主党候補のジョー・バイデン前副大統領が、21年以降の米国大統領の座を勝ち取った。トランプ陣営の大統領選挙アドバイザリーボードでもあった著者が政権の「内側」から見た実情を解説する(著者がまとめたトランプ後の米国と中国、そして日本の未来については新刊『NEW RULES――米中新冷戦と日本をめぐる10の予測』で詳報)。連載3回目となる今回は、バイデン政権で懸念されている財源の問題について。グリーン・ニューディールやほかの政策などもすべて実現しようとすると、実に17兆ドルの予算が必要になる。どう解決するのだろうか。(中部大学経営情報学部教授 酒井吉廣)

大統領選のカギを握った
社会主義への同調意見

 2020年の大統領選挙で正式に勝利を収めた民主党のジョー・バイデン氏が、21年以降の閣僚人事を本格化し始めた。

 ドナルド・トランプ大統領がホワイトハウスに居座って政権移行の邪魔をするとの見方もあったが、当人は11月23日に政権移行準備をバイデン氏に促した。トランプ大統領は、選挙で戦うのと嫌がらせとは別として、世論を敵に回さないことに配慮した。そうなれば、仮に今回の選挙に不正があったとして最高裁まで争っても、勝利の確率を下げてしまうからだ。

 むしろこの先懸念されるのは、バイデン氏の人事発表後、民主党内のプログレッシブ(進歩派)がそれを批判して見直しを迫られるケースだ。こうした懸念が存在することからも、船出から民主党内の掌握が難しいことが分かるだろう。そのため、バイデン氏はこれまで「Unite(団結する)」や「Decency(良識)」といった新政権の理念だけは繰り返し発表してきたが、実務的な政策案を表に出せていない。

 しかし、「コロナ対策(健康と経済)」「脱炭素社会」「人種差別問題」の3つは、次期米国大統領が解決すべき必須の課題だ。また20年7月から下院と財務省の間で合意ができていないコロナ対策の救済パッケージ第2弾の実行も、急ぐ必要がある。

 実際に政権が移行されるのは21年1月のことだが、民主党が主導できる政策については、急いで実施しなくては、米国民から「何のための新大統領か」といったそしりを免れない。またこの判断を間違えると、民主党内の進歩派の躍進が続く中、新政権の最初の審判が下る22年の中間選挙でダメージを受けかねないだろう。

 一方、共和党は今後、トランプ陣営が掲げる「不正問題」を理由に、大統領選挙の結果を覆そうと注力していく。同時に、左寄りをあらわにした民主党を打倒すべく、次の中間選挙に向けて準備を始めている。次への準備が極めて重要なことは、前回(16年)の民主党予備選で敗れたバーニー・サンダース上院議員を見れば自明だ。当時の支持者との関係を維持し、20年の大統領選のカギを握ったという事実を見ても歴然だろう。

 サンダース氏は18年の中間選挙で、若者の人気を集めるリベラル派のアレクサンドリア・オカシオコルテス下院議員を誕生させた。そして今回の大統領選では民主党内だけでなく、共和党内にも進歩派の旋風を吹き込むことに成功した。言い換えれば、ジョージア州の共和党の知事を含めてトランプ政権内で反旗を翻す動きをした人の多くは、民主対共和の戦いではなく、イデオロギーとしての社会主義に同調したと評価できる。

 このような混乱の中で、バイデン氏の第一歩はどうなるのか。