バイデノミクスに必要な
総額17兆ドルの予算
米国の社会・経済政策は常にコスト対比で議論がなされるが、一度決定されると受益者間で不平等が生じないように徹底する力はある。
例えば日本で実施された一律10万円の給付は、海外在住者や(理由いかんにかかわらず)、送金先銀行口座を指定しない人を対象としなかった。一方、米国の一律1万2000ドルの給付は、社会保障番号さえ持っていれば、何があっても、どこにいても政府小切手が送付された。
逆にいえば、国民全体を対象とする政策で日本のような曖昧さを残してしまうと、受益者から黒人を外す人種差別問題であるという批判も起こりかねず、政策がつまずくリスクがあるのだ。米国民は公務員を偉いとは思っていない。今回のバイデン支持層の多くも、弱者救済のための増税は受け入れるが、公務員の増加やその給与増は許さないとメリハリを効かせている。
こうした中で、サンダース氏と政策協定を結んだバイデン氏は、再生エネルギーへの大規模投資計画「グリーン・ニューディール」と低所得者対策という巨額の予算を必要とする政策に取り組まなければならない。しかもグリーン・ニューディールは既に民主党でオカシオコルテス氏らが法案を提出しており、これから調整しますという類いのものではない。
問題は、その予算が膨大なことにある。例えばバイデン氏は当初、グリーン・ニューディールに4兆ドルかかると言っていたが、現在では10兆ドルと増加させている。財政政策の予算は実行とともに増えることはあっても減ることはないので、この数字はグリーン・ニューディールのための最低ラインと考えるべきだろう。
低所得者対策も膨大な予算が必要だ。筆者の試算では、全米に約1600ある公立大学をすべて無償化すると、その費用は毎年3兆ドルとなる。国民皆保険も1兆ドルが必要だ。一部には、バイデノミクス全体で17兆ドルは必要との見方があるが、おおむねその通りだろう。
既に、MMT(現代貨幣理論)で有名な米ニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授は、これらの政策を前提とした国債発行を考える準備を始めており、いずれも実現可能だとコメントしている。予算の拡大が必要だからMMTに、というのはあまりにも短絡的な思想なのだが、税金以外の収入源として米国債の発行が必要なのは間違いない。