終盤戦に入った米国の大統領選挙では、民主党のバイデン氏のリードが続いている。バイデン氏の公約では増税の悪影響が懸念されがちだが、同じく公約であるインフラ投資などの歳出増を併せて考えれば、必ずしも同氏の経済政策が景気に対して逆風となるわけではない。むしろ心配する必要があるのは、投開票の混乱や党派対立の深刻化による不透明感の高まりだ。(みずほ総合研究所 調査本部 欧米調査部長 安井明彦)
バイデンの「増税」公約が
景気の追い風になる可能性
「(就任)初日に法人税制を変える」
バイデン氏は9月初めのインタビューでこう答え、公約である増税の実現に意欲を示した。
バイデン氏への政権交代については、米国経済にマイナスになるという見方が少なくない。最大の理由は、バイデン氏が公約する大型の増税である。現職のトランプ氏が実現した大型減税との対比もあり、バイデン氏への政権交代が景気の逆風となる展開が連想されている。
確かに、バイデン氏の増税は規模が大きい。10年間の累計では、増税額は4兆ドルを超えるとみられる。2016年の大統領選挙では、やはり民主党のクリントン候補が増税を提案していたが、バイデン氏が提案する増税の規模は、クリントン氏の2倍弱に達する。
バイデン氏は、トランプ氏が実施した減税を見直し、所得税の最高税率や法人税率を引き上げる方針だ。これに加えて、キャピタルゲインに対する増税や、企業の海外子会社の収益に対する最低税率の引き上げなど、多岐にわたる増税が提案されている。
もっとも、経済への影響を考えるのであれば、増税だけに注目するのはバランスを欠く。あくまでも増税は、バイデン氏の公約の一部に過ぎないからだ。
バイデン氏は、増税を上回る規模の歳出拡大を提案している。高速道路や鉄道に対するインフラ投資、再生可能エネルギーや電気自動車普及のための財政支援、さらには公的医療保険の拡充や公教育・育児サービスへの支援など、10年間での歳出増は7兆ドルを超える。2016年のクリントン氏の提案と比べると、4倍以上の規模である。