COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミック(世界的大流行)は、わずか数カ月の間に、リーダーシップのあり方を根本的に問い直した。世界のあらゆる国や組織、個人がコロナ禍の影響を受け、先行きの不透明さが増す中で、経営とリーダーシップをどのように再定義すべきか。KPMGの2人のリーダーに聞いた。
コロナ危機の前と後で
CEOの意識はどう変わったか
編集部(以下青文字):コロナ危機の前と後で世界のCEOの意識や経営のアジェンダは、どのように変化したのでしょうか。
ビル・トーマスBILL THOMAS KPMGカナダのCEO兼シニアパートナー、KPMG南北アメリカ地域のチェアマンを経て、2017年10月、KPMGインターナショナルのグローバルチェアマン兼CEOに就任(2020年10月再任)。世界146カ国のクライアントに高品質なサービスを提供するため、約22万7000人のプロフェッショナルを率いてファームワイドの戦略立案をリードしてきた。
トーマス:CEOは、近年例のない危機を乗り越えなければならず、プレーブック(戦略の定石)がない中、このパンデミックが引き起こした課題に対処するために戦略を見直さなければなりませんでした。
KPMGでは、我々が直面している複雑な世界の状況を明らかにするために、世界の主要企業のCEOを対象とした調査(「KPMGグローバルCEO調査2020:COVID-19特別版」)を行いました。COVID-19の影響が深刻化する前の2020年1~2月に1300人のCEOに対して初回調査を行い、その後、CEOの意識やCEOを取り巻く状況がどのように変化したかを検証するため、7~8月にも数百人を対象に追加調査をしました。
この調査から、CEOは世界経済の見通しについて(コロナ前と比較して)自信が低下しており、優先課題が根本的に変化していることがわかりました。コロナ危機を受けて、人材リスク(採用、人材の維持、従業員の衛生・健康などを含む)、企業の社会的責任、デジタル・トランスフォーメーション(DX)がCEOの優先事項の上位に挙がりました。
初回調査ではCEOは人材リスクについてあまり懸念していませんでしたが、コロナ後に最大のリスクと認識したという結果は、パンデミックの影響を受け、誰もが迅速かつ決断力をもって優先順位を再考することを余儀なくされた事実を示しています。
髙波:パンデミックは生命の危機をもたらす非常に深刻な問題ですが、あえて一縷の光明を見出すとすれば、地政学的な対立や所得格差などの分断が深まる一方だった状況において、国や貧富の違いを超えて命は平等であることを世界中の人たちが再認識したことではないでしょうか。世界が共通して抱えるこのような課題はほかにも山積しており、政治や経済のリーダーはESG(環境、社会、ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)に関する諸課題の解決に向け、良心に基づいて真摯に取り組んでいくことが求められていると思います。
コロナ危機後に、CEOの優先事項として企業の社会的責任が上位に挙がってきたのは、企業の存在意義を再度見つめ直す経営者が増えたからではないでしょうか。
トーマス:私たちの調査では、多くのCEOが個人的にもパンデミックの影響を受けたと回答しています。自身や家族が新型コロナウイルスに感染したと回答したCEOのうち、半数以上が結果として自社の戦略を変更しています。このようにCEOの家族が影響を受けると、コロナ禍の事態がより現実的なものとなり、役員会議室での会話に、個人的に感情移入して集中するようになります。その感情には、いま言及があった“良心”も当然含まれているはずです。
また、パンデミックにより社会変革への要求が高まり、CEOは自社のパーパス(存在意義)を再評価することになりました。CEOの79%が「コロナ危機以降、組織のパーパスに対して感情的なつながりを強く感じるようになった」と回答し、同じく79%が「ステークホルダーのニーズに対応できるようパーパスの見直しを余儀なくされた」と認めています。
CEOがパーパスを現在および将来の自社の成功のカギととらえ、社会と経済に対して存在意義を示しつつ、組織を導こうとしているのは、極めて理にかなっていると思います。
企業は、社会が直面する重大な課題に取り組む役割を担っていることを、CEOは認識しているのです。あらゆる課題が山積する中、ビジネスがこれまで以上にパーパス重視に変化している事実は、非常に励みになります。