伊藤忠・岡藤正広会長が実践、“一流のセンス”が伝わる「ちょっとした手土産」の選び方とはPhoto:SANKEI

長らく業界の雄とたたえられた三菱商事と、昨今は熾烈なトップ争いを演じている伊藤忠商事。同社の躍進の立役者である岡藤正広会長のビジネス手腕は注目を集めているが、彼の仕事における大切な流儀のひとつに、手土産に関するこだわりがあるという。※本稿は、野地秩嘉『伊藤忠 商人の心得』(新潮社)の一部を抜粋・編集したものです。

ベルトだろうがコメだろうが
相手の好みを時機よくくすぐれ

 岡藤は手土産を非常にうまく使う。トップ営業のシーンでも、社交でも、お礼を贈る場合でも、贈り物を秘書まかせにはしない。細心の注意で選んでいる。社内の根回しだけでなく、伊藤忠のイメージアップのために手土産を使っている。

 まず「何を差しあげるか」は秘書が基本的なプランを作る。岡藤はそれをチェックして、ひとりひとりの顔を思い浮かべながら品物を決める。金額も物品の内容も細かく指定する。

 これはわたしが実際の場面を見聞した例だ。彼はある人物と面談し、その人が岡藤のベルトを褒めた。

「いいベルトですね。お似合いです」

 次にその人と会った時、岡藤は「これ」とさりげなく箱を渡した。開けると、なんとその人が褒めたベルトと同じものが入っていたのである。

 商人が贈るプレゼントとはこういうものだ。相手の好みを知っておいて、そのうえでサプライズを演出する。もらった人は確実に岡藤のファンになる。

 もうひとつある。2024年の8月、店頭から米が消えたことがあった。すると、岡藤はそれまで決めていた贈り物プランを改定して、出会った人物には子会社の伊藤忠食糧が扱っている米を贈ることにした。米がなかった時期だけに、もらった人たちはみんな感謝した。