日本流ビジネスの魅力
僕は「恩」や「徳」、「縁」といった日本語が好きだ。おそらく日本にしかない概念で、日本のビジネスにはこれらの概念が深く根づいていると感じる。
日本のビジネスのいいところは、何事も人間関係で成り立っている点。取引をするにも、タッグを組むにも、相手とのつながりを大事にする。それに対して、日本以外の国・地域でビジネスをする場合、原則的にすべてはおカネで決まる。自分の手元にどれだけの利益が入るか、誰もがそれを基準に行動するからだ。
僕は東京を拠点に起業する前から、ビジネスの面で本当にたくさんの日本人に助けてもらった。「縁」と呼ぶのがふさわしい、偶然にして幸運な出会いがいくつもあった。
「日本→マレーシア」のビジネスをしたいと決意したタイミングで出会ったのが、熊本で牛肉加工を行っているゼンカイミートの荻原新一社長だった。彼との出会いをきっかけに、宮崎や鹿児島、北海道のおいしい和牛を、オーストラリア産ビーフが独占しているマレーシアの市場へ持っていってみんなに食べてもらう、というビジネスプランが生まれた。
しかしマレーシアの輸入体制、日本の動物検疫の問題、輸出ライセンスなど和牛輸出を実現するために超えるべきハードルは決して低くはない。誰も実現したことのないビジネスを模索するなか、くじけそうになった時、僕を応援してくれる日本人のビジネスマンが何人か集まってきてくれた。
そんな「縁」のおかげで、今では、牛肉ばかりではなく、鶏肉、化粧品やサプリメントなど、いろいろな商品を扱うようになった。
ハラル牛肉を使って日本初、いや世界初「ハラル焼肉」「ハラルしゃぶしゃぶ」をはじめた。既存のレストランと業務提携をして、ムスリム(イスラム教徒)の人々に焼肉、しゃぶしゃぶを提供している。一人ムスリムがいるだけで、焼肉もしゃぶしゃぶも同席する人々が諦めなければならない。出張で日本に来たムスリムも、憧れの日本食でなく毎日食べているマレーシア料理店へ連れて行かれる。これを打開したのが、「ハラル焼肉」であり「ハラルしゃぶしゃぶ」だ。両店は現在、大使館やイスラム企業、また、イスラム国と関連のある日本企業の会食の場となっている。僕が提唱している「Halal for all」が一つの形になった。
人を見込んで投資をしてくれたり、協力をしてくれたりする。これは日本のビジネスのとても大きな魅力だと思う。僕もせっかくいただいた「縁」を大切にして、さらに新しい「縁」を築いていくために、もっともっと「恩」や「徳」を大切にしようと思う。
(次回は10月30日更新予定です)