「ハラル」が日本の地方を救う

 またマレーシアの政府職員として大阪で勤務していた頃は、大阪から鹿児島まで西日本を隈なく回った。農業や畜産業にたずさわる人、全国的にはそれほど知名度はないもののクオリティーの高い物を作っている中小企業の経営者、そういう方々は本当に親切だった。僕が訪ねていくと、いつでも喜んで仕事場を案内し、自慢の商品を見せてくれた。

 ところが、みんな苦労していた。景気の停滞と人口の減少で国内のマーケットが縮小しているなかで、海外に自分たちの商品を売ろうにも方法がわからない。売り出そうにも大手企業のようにネームバリューがないから、うまくいかない。どうにかならないか。そういう声がたくさん寄せられた。

 当時、僕はマレーシア製品を日本へ輸出する窓口を務めていた。つまり「マレーシア→日本」の方向に物を動かす仕事をしていたわけだ。今度は逆の方向、すなわち「日本→マレーシア」でやれないかと考え、2010年〈マレーシア・ハラル・コーポレーション〉という会社を立ち上げた。

 冒頭でも簡単に触れた通り、「ハラル」とは「イスラムの戒律を守るもの」という意味。具体的には、食料品であれば「アルコールを使用していない」「豚由来の原料を使用していない」「(牧畜が)イスラムの戒律に従って殺処理されている」といった基準、金融であれば「利子を取らない」「賭博やポルノなどに関連するビジネスとは取引しない」といった基準が挙げられる。

 でも、これは狭い意味でのハラルにすぎない。僕がビジネスを通して広めていきたいハラルは、「すべての人にとってのハラル(Halal for all)」。イスラム教徒であっても、仏教徒であっても、マレーシア人であっても、日本人であっても、誰もが安心して利用できるもの。食料品、金融、ホテルや旅館などの宿泊施設、レストラン、その他のサービスも含めて、人の生活に関わるあらゆるものが「ハラル」となりうる。

 たとえば、イスラム圏でもっとも厳格とされているマレーシアのハラル基準に関して言えば、ハラル認定された米は「古米や品質のわるい米が混ざっていない」というクオリティーも同時に保証されている。「ハラル」と言うと、すぐに「イスラム教」との関係を思い浮かべてしまうけれど、実際はそうではないのだ。

 僕の会社では、日本の農産物や畜産物、その他いろいろな製品に対してハラル認証を受けるためのアドバイスをしたり、販路を紹介したりしている。ハラル産業の市場規模は現時点で310兆円、うち食品市場は6415億円(ともに2010年)で、その規模はイスラム人口の増加にともなって、これからもどんどん膨らんでいくから、ハラル市場に参加できれば日本の地域産業を助けることにもなると考えた。