10年前、エリート眼科医の道を捨て、アメリカ・シアトルの自宅地下室でバイオベンチャー〈アキュセラ〉を設立した窪田良さん(45歳)。自己資金100万円からスタートした同社は、これまでに投資家やパートナー企業から100億円を超える資金を集め、欧米で失明原因トップの眼科疾患、加齢黄斑変性の新薬開発を進めている。
どうすればイノベーションを起こせるのか? その問いを自問自答し続ける窪田さんの目を通して見えてくる、世界を変えるためのヒントとは。「人生が動きだす、世界の眺めかた」というテーマでスタートした本連載の記念すべき第1回と続く第2回は、平均成功確率3万分の1と言われる新薬開発の分野に、まさに裸一貫で身を投じた窪田さんに語っていただきます。
 

僕が日本で考えること

1966年、京都生まれ。慶應義塾大学医学部を卒業後、同大学大学院で研究を続け、緑内障の原因遺伝子「ミオシリン」を発見する。臨床医としてエリートの道を歩むも2000年に渡米。02年にシアトルの自宅地下室でバイオベンチャー〈アキュセラ〉を設立する。現在、加齢型黄斑変性に効く新薬の承認に取り組んでいる。

 ――今の日本は、「実験」するには案外おもしろいかもしれない。

 ひと月に一度くらいは日本を訪れる。東京を拠点にして、地方の都市をまわり共同研究開発をしてくれている人や投資家に会ったり、講演をしたり、取材に来る人と話したり、結構いそがしい時間をすごす。

 そのなかでふと、ビルの窓から街を眺めたりしている時に考えるのだ。

 おそらく、みなさんも日々感じているように、今の日本はお世辞にも「いい状態」とは言えない。あいかわらず閉塞感が漂っているし、特に去年の東日本大震災後は人々の抱く無力感がいっそう強まったように思う。経済が好転する材料も見当たらない。若い人は就職にも苦労している。政治は何をやっているのかさっぱり見えてこない。要するに、ひどく混沌としている。

 でも、だからこそ、「実験」してみたら、おもしろいんじゃないか、と考えてしまうのだ。そう言うと、「実験なんてとんでもない。おまえは国を出たから、そんな呑気なことを言っていられるんだろう」と怒る人もいるだろう。しかし、僕が言う「実験」は決して無責任なものではない。むしろ、世界で起こるすべての事柄を「自分のこと」として捉えなおす作業と言ったほうがいいかもしれない。